編集員通信


“安馬で天下を取る夢”

 1月30日、東京2日目のクロッカスステークスを、接戦の末にものにしたのはキンシストーン。引っ張りきりの状態であと1ハロンのところまで我慢して持って来ている限りは、追い出されるとさぞかしと思ったラストスパートなのに、思いのほか鋭さに欠け、トッププロテクターの猛追をクビの差凌ぐのさえ精一杯の状態。まだ結論は急げまいが、距離の限界がすぐ近いところにあるような印象は与えていた。ともあれ、芝に使い始めて3連勝、スプリンターとしての地歩を固めつつあるのは否定出来ない。
 この新星は、米国のトレーニングセールで購買して来た。選択の決め手になったのは、タイムトライアルで1ハロン11秒台をマークしたスピードだが、藤岡師の着眼点は、育成を担当していた牧場の飼育料金の安さにもあった。常識的にも、高い料金を取って育成している所は、それなりに管理が行き届いており、見るからに堂々とした体でセリに出して来ている。そんな体も、日本に連れて帰ると、まるで空気の抜けた風船のように凋み、貧弱になってしまうばかりでなく、こちらで考えていたほど働いてくれないケースがよくあった。それに比べ、安い牧場はあまり手をかけてやらないせいか、ボテボテの体。
 キンシストーンはダックスフンドのように短足、体はズングリしいかにも不格好。その体で11秒をマークしたのだから、馬体が締まってきた時を想像すると夢は脹らむ一方。勿論、値段は極めて廉価ときている。“ダメで元々”の気楽さも手伝い、1も2もなく購入が決定されたそうだ。父も母もスプリンター系だから、距離はせいぜい保っても1800mあたり迄と受け止めていた藤岡師は、勝てるだろうと考えていたデビュー戦で6馬身もち切られた2着であっても、さしてショックはなかった感じ。むしろ、その後の快進撃に買い入れた判断の誤りでなかったことに満足している。
 いよいよこれから正念場を迎えることになる。安馬で天下を取る、ささやかな「アメリカン・ドリーム」に向けて藤岡師に気負いはない。


編集局長 坂本日出男



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