編集員通信


“工藤先生おめでとうございます”

 今月一杯で定年退職される、昭和4年生まれの工藤嘉見調教師には、お別れ迄あと1週間の猶予があるといえ、2月20日第17回フェブラリーステークス(G1)こそは有終の美を飾るにふさわしい舞台であり、調教師免許を受けて35年間、研究し続けた結果の集大成にしたいものと送り込んで来られたのがウイングアローだった。破竹の勢いの5連勝で、押しも押されもしない98年度4歳ダート馬の頂点に立ったのだが、名コンビ南井が新調教師となって騎手を引退してからというもの、まさか馬が気落ちしたわけでもないだろうに、しばらく勝ち星から遠去かっていた。最も勢いに乗っていた頃の馬体重は444〜450`であったことを思えば、その間460`を仲々割ることが出来ないでいた体重の方に問題があったのかも知れない。平安ステークスを使ってのち、僅か1カ月足らずの間に18キロの減量を果たしたことになる。数字的にはそれが理想であっても、事を急ぎいっぺんに減らしてしまうとその反動がどこかに現れてしまうものだ。さぞかし工藤師の心中たるや平静ではいられなかったのでは……。カイバの方はしっかりと食べている。食量制限による調整ではないだけに、稽古は手加減なし。プールに入れたり、坂路でやったり、DWコースに入れたりの過程を経ての極め付きは、5連勝のきっかけとなったCWコースを使用した最終追い切り仕上げに戻したこと。それ迄のBコース調整からの転換は、体を絞るための取って置きの起死回生策だったわけで、やる側にすれば相当な勇気が必要であったろう。鞍上には、1月26日から2月25日迄の短期免許で来日しているオリビエ・ペリエを配した。空極の仕上げであっただけに、道中はズブいし、4角での反応も冴えず。外へ出そうとするとペリエの考えと逆に、苦しがったのか内へ行こうとする。意に添わすためには、まず勝負以前の問題として馬を服従させなければならない。テン乗りであっても、素早くそうした判断を下せ、実践に移せるのだからペリエは凄い。さすが世界のトップジョッキーである。入線後カンカン場(検量室)に引き揚げて来たペリエは、真っ先に工藤師と固い握手を交わし、次いで南井師に抱きつくや熱いキッス(外国ではよくあること。ただ、こればっかりは文化の違い、見ていて気色のエエもんやないなァ)それはともかく、ペリエの喜びの大きさが直截的に伝わって来て、結構目ウルウルの感動ものだった。
  工藤先生、誠におめでとうございました。これと言って特に飾った労いの言葉もございません。ただただ、長い間に渡ってご苦労さまでした。

編集局長 坂本日出男


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