編集員通信


“馬乗り稼業は危険と隣合わせ”

 26日朝の坂路調教で、馬場開場早々にちょっとした異変が生じた。直線200mのハロン棒の手前地点で、内ラチ沿いを軽いキャンターで登って来ていた馬が、何に驚いたのか次々と例外なく横っ飛びして迂回して通る。何しろ予期せぬ出来事であり、騎乗者の誰もが大きくバランスを崩し、少なくとも6〜7名は落馬していた。スピードを上げ、追い切りの態勢に入っている馬は、騎乗者の指示に従っており走りに集中しているのと、原則的に外ラチ沿いを走るため、今回のケースでは障害物が眼中にないかのように通り過ぎて行っていた。ウォーミングアップ中で、ゆっくり走っている時であるから、周囲がよく見えるだけに過剰な迄の反応を見せたのであろう。
  幸いスピードが緩いことで、数の多いわりには人馬共に大した怪我はなかったようだが、全力疾走に移っている馬と衝突しようものなら、笑ってすまされぬ惨事を招いていたに違いない。幅員7mしかないコースの最内から最外へ急激に逃避するのだから、後から来る者は避けようがない。問題の地点を調べていた係員が1回では分からなかったようで、橋口師等も加勢した2回目の探査をし終えてからもまだその地点に差しかかると反応を示す馬が複数いた。人間には分からなくとも、馬は我が身の危険をいち速く察知し即座に行動へと移す。
  原因は、狸や野犬等のコース内侵入を防ぐ為のネットで、破損補修のため一部分の色が、従来と違っていたことにあったようだ。普段とちょっとでも異なっている状況に出合うと、人間は気にとめないようなことでも、馬は敏感に反応する。本馬場入場時に、騎手が振り落とされる光景を目撃された方は少なくないはず。決して騎手が油断しているわけではないのに、500キロもの体がこんなに鋭く、スピーディーに捻転するのかと我が目を疑う身のこなしの敏捷さ。
  先に異常を知った人から後続への伝言で、その地点はくれぐれも注意するように聞いて、身構えていながらも制御しきれない。備えが役に立たないのを目のあたりにすると、馬乗り稼業がいかに危険な仕事か思い知らされる。

編集局長 坂本日出男

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