編集員通信


“走り方、「右手前」と「左手前」”

 新聞、雑誌の紙上でひんぱんに使われている用語のひとつに手前(てまえ)というのがある。馬の駆歩は、半身に構えた肢勢で、左肢に比べ右肢が前に出た肢勢と、その逆の肢勢があり、前者を「右手前」の駆歩、後者を「左手前」の駆歩と呼んでいる。
 右手前の襲歩では、
 1.左前肢 
 2.右前肢を上げこれを前方に送る。
 3.右前肢を地面に着け、左後肢で地面を蹴る。
 4. 前方に伸ばした左前肢を軸にして、体を支えながら前方へ送る。
 5.四本の肢を宙に浮かし、後肢を前に運んで着地の態勢を整える。
 6.左後肢を地面に着け、体を前へ送りながら、右後肢を地面に着ける。

 これで1完歩が終了、再び動作は繰り返される。ここで誤解され易いのは、動作としては、左前肢が右前肢よりも先に動いていることで、これを「左手前」と受け取られていること。ここでの手前(てまえ)というのは、通常使われている「その所よりも自分に近い方」という意味とは違い「最も遠い所(先)」という意味で、場所的には左肢よりも前へ着地する右肢がその語源になる。
 馬は元々左利きで左手前の駆歩が得意。しかし、左前肢だけで走る癖をつけると、そっちにばかり負担がかかり、故障も起こり易いし、疲れて伸びがなくなる。疲れてくれば、本能的に馬自身で楽に走れるよう手前を変えそうなものだが、全部が全部そうではない。調教の段階で手前を変える(踏歩変換)を教えてはいるものの、いざ実戦になり、走るスピードや、興奮度の点で平生と違う中では教えられた通りに実行出来ないのが実状だ。適当に手前を変えることの出来る馬は、ラストで二の脚を繰り出す。そのまま走り通して、力は余っていそうなのに伸びないで敗れた馬、敗因がよく分らない馬というなかには、手前を上手に変えることが出来なかったケースが少なくない。

 

編集局長 坂本日出男

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