編集員通信


“信頼度を高める川原、吉田稔”

 武豊が本拠地をアメリカ西海岸に移し、いよいよ始動した。一時帰国はあると言うものの、淋しさの否めない関西地区。完全にその穴埋めをするところ迄は行ってないが、先週、活気を呼び込んでくれたのが地方所属の安藤勝、川原、吉田稔の3騎手。安藤については改めて記す迄もなく、JRAに来てもベスト5の中には数えられる技量の持ち主であり、それ相応の実績も残している。(先々週の)土、日16鞍に騎乗して、僅かに1勝しかしていなかったものの、やはり違いを見せつけていた。芝コースにおいては内ラチ沿いの2〜3頭分がかなり荒れて来ていた。雨で渋化していたことも計算に入れレースの前半は徹底してインコースを避けている。何気ないようであっても、じつは細かいところへの気配りを怠らない。1秒の何分の1かの差で争われる勝負には、それが明暗を分けたケースがしばしばある。
  かつて、名手と言われた故栗田勝師は「200mだけの追い比べなら、500勝ジョッキーも見習いジョッキーもそんなに差が出るものではない。違いは、道中の持って行き方だ」と話してくれた。安藤勝が見せたコース選択に、いかに戦術の基本を丁寧に実践しているかを知ることが出来る。
 川原は土曜日(中京7日目)だけの参戦で6鞍騎乗。1勝し、2着2回(12Rは同着)、3着1回。これ迄は、腕のわりには騎乗馬に恵まれないところがあった。最近は勝ち負け出来そうな素材を依頼されるようになり、漸く持ち前の技術が日の目を見始めている。流麗なフォームで、JRAのジョッキーと比べても殆ど変わらず、少しも違和感なく集団の中に溶け込んでいる。取材に当たっている記者からは“誠実で、接していても気持ちの良い人”と聞いている。
 要はJRAへ参戦出来るチャンスの多寡の問題。受け入れてくれる、依頼してくれる調教師の数は増加一途を辿っている現況なので、第2、第3のアンカツが誕生するのは時間の問題。武豊のお手馬たちが回って来るのを座して待っていては、彼等にどんどん持ち去られてしまいかねない。轍鮒の急(さし迫った危険・困窮の意)の自覚が次代を担う面々の中にあるのかどうか気になる。もっとも、ファンは所属にかかわりなく、ハイレベルのレースを作り出してくれる騎手を求めているので、地方のトップジョッキーの参入の機会が増えれば増えるほど歓迎しそうだ。

編集局長 坂本日出男


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