編集員通信


“ジュリー・クローンの思い出”

 8月9日、女性騎手として初めての競馬の殿堂入りが決まったジュリー・クローンさん(37才)のニュースが伝わって来た。1981年にデビューし、99年4月18日に引退する迄、グレードレース119勝を含む3546勝、収得賞金8137万ドルを上げている。現役中は人気者らしく話題も豊富で、全盛時の88年前後には、歴代最多勝のシューメーカー騎手とマッチレースで勝負して先着し拍手喝采を浴びていた。

 当時の女性騎手による年間勝ち鞍363勝、収得賞金777万ドルの記録更新も果たしたし、陸上のジョイナー、テニスのナブラチロワ等6人の女性スポーツ選手と共に、ブッシュ大統領主催の全米女性スポーツデーを祝うレセプションに、競馬界を代表して招かれていた。

 最大のピンチに見舞われたのもその年で、11月24日夜のニュージャージー州メドウランズ競馬場における第6レースで、騎乗馬がコースの影に驚き、急に飛び上がったために体勢が崩れ、とっさに首へしがみつき立て直しを図ったものの結局は落馬。彼女を避けきれなかった後続馬に腕を踏みつけられた。救急隊により近くの病院へ運び込まれた彼女は、4時間にわたる手術を受けた。骨が細く砕けているために完治には相当時間がかかっている。

 その後も93年、95年と落馬骨折しながら、その都度不死鳥のように蘇ってきた。特に93年には女性騎手として初めての3冠レースのひとつ、ベルモントステークスをコロニアルアフェアーで優勝している。何度か来日もした。スーパージョッキーシリーズ以外でも騎乗していたが、京都で、内へササッている状態にもかかわらず片ハミだけでしっかりと制御、スピードを緩めることなく追い立てて押し切ったレースが強く印象に残っている。

 レース後の検量室で男性騎手に鞭で殴りかかった逸話を耳にしてはいたが、実際にレース振りを目にすると、さもありなんと思った。クリ、クリッとした目、カン高い声、人形のような可愛い子なのに、ひとたび鞍上に座せば凛然として、まるで女を感じさせない。凄い女性だった。

編集局長 坂本日出男

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