編集員通信


“大山鳴動して何匹の鼠が……”

 軽い熱発があった。大したことではないのだが、大望のある身だけに
“無理はしない方が良いだろう”
ということで、いつもなら入れるはずの坂路入りは差し控えられた。だが、コースでは休まず乗られて来ている。

 スポーツ新聞の記者が、5日間も坂路入りしないことに疑問を抱き、複数の社が13日(水)の紙面で「フライト神戸新聞杯に不安」あるいは「フライト少々お疲れ」の見出しで煽情的に書き立てた。そこには長浜調教師の談話もあるにはあった。「予定通り神戸新聞杯から使うつもり」という簡単なもので、それ以上の状態説明はない。言う迄もなくアグネスフライトはダービー馬であり、秋のG1路線では最も衆目を集める存在であるから、報道価値は大きい。記者にすれば格好のネタだろう。ファンも詳しい近況を知りたがっていることだし……。

 レース1週間前の追い日(水又は木曜日)に速い時計の追い切りをかけられなかったケースは、決して珍しいことではなく、大騒ぎするようなことでもない。直前のことならそうはいかないが……。毎日、何らかの記事で紙面を埋めなければならない日刊紙記者の大変さはよく分かる。今回の件は、決して取るに足らないようなことではなく、重要な意味が含まれている可能性がある。だから余計にしっかりした裏を取らないままに記事にすると、厩舎側との間に軋轢が生じたり、いたずらにファンを混乱させる原因になりかねない。

 専門紙の記者が結論を出すのはレース直前になってからで良いわけで、過程について調査は詳細にするし、厩舎関係者からの聞き取りと同時に、調教担当者は、より注意深く馬体、動きのチェックを励行しているが、1週間前からやきもきしても始まらない。立場が違うだけに、通常このようなケースでは傍観者のように気にも止めていないことの方が多い。いわゆる聞き流し。知ってて知らぬ振り。大山鳴動して、果たして何匹の鼠が飛び出してくるのやら。

 

編集局長 坂本日出男

 

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