編集員通信


“ひとつの壁を突破した西原”

 

 先週の阪神、札幌で松田国厩舎が同一週で9頭出走させ7勝する快挙をなし遂げた。その口火を切ったのが阪神5日目4R、未勝利戦アイエフゴールドの逃げ切りだった。

 ジョッキー西原は言葉少なく「いい馬に乗せて頂きました」といたって謙虚に淡々とインタビューで答えている。自身これがデビュー以来6勝目(他に地方交流レースでの1勝もある)。6勝のうち4勝が他厩舎からの依頼騎乗。それ等のすべてが乗り替わりであり、うち3頭は初騎乗。いわゆるテン乗りだった。ウルトラビューティのみが4度目の騎乗。

 自厩舎の馬は実戦は勿論のこと、普段でも接する機会が多いので、気性も含めて諸々の事情に精通していてそれなりの心構えが出来た上でレースに臨んでいる。テン乗りは依頼サイドのアドバイスのみが気持ちのよりどころ。後はすべて自分次第。だけに、期待に沿える結果を出していることの価値は高い。

 女性のわりには体が硬いように思われるが、それなりに自分のスタイルを固めると問題ない。それより、気になるのは出遅れるケースが多いこと。馬のせいばかりと片付けてしまえない。今後精進してそれを克服することが課題となるだろう。馬を気分良く走らせるという面では非凡なものが身に備わっているように思う。自厩舎の馬以外では、延べ18の厩舎から依頼が来ていたが、比較的人気薄に乗っているので、気が楽というのはあったろう。過去1番人気に乗ったのはたったの1回だけ。7月22日小倉でのコンチェルトで、15頭立て14着に終わった。もっとも、同馬はレース中に右第3中足骨々折というアクシデントに見舞われながら完走しきっている。馬も人も気の毒な結果だった。

 負担重量において3キロの減量の恩典があるし、男と同等のハキハキ、キリキリした性格が、ようやくにして各調教師に認められ始めた“恵まれない女の子に馬を回してやる”という感覚は全くなく、男女を区別しないで“3キロ減を起用するのだったら、まず西原に頼もうか”という、腕を見込まれての依頼が増えつつある近況。

 はっきり言って、ひとつの壁を突破した。これからは勝てる可能性の高い駒が集まってくることだろう。それ等でどれだけ依頼主の納得するレースが出来るかで将来の展望が明るいものになるか、はたまた暗いものになってしまうか、今、その分岐点に差しかかっている。この世界、実はチャンスを与えられないまま終わる人が少なくない。その点西原は恵まれている。次の新人がデビューして来るまでの6カ月間が、ある意味では騎手生命を賭ける勝負の期間なのだ。

 

編集局長 坂本日出男

 

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