編集員通信


“もしも70歳の騎手が誕生したら”

 定年退職を間近に控えている内藤調教師(69歳)が一念発起?

 新規騎手試験に挑戦するということが話題と反響を呼んでいる。当初この話を耳にした人々の多くは“シャレだろう”とか“冗談やろう”とか真に受けなかった。元騎手であり、現在も自厩舎の管理馬の調教をつけてきているのだから、単に馬に乗るということだけを言えば、競馬学校で3年ばかりしか乗っていない少年、少女達より数段勝れていてもおかしくない。

 しかし、実際に10月31、11月1日千葉県白井の競馬学校で行なわれた騎乗技術試験においては、コースを間違えたとか、入線後に落馬したとかあって、師にして、思い通りに出来なかったようだ。仮りに、70歳で試験に合格、騎手免許の再交付を受けたとして、実際に活動を始めた場合うまくやって行けるものかどうか、老婆心ながらついつい余計なことを想像してしまう。

 11月11日オーストラリアのフレミントン競馬場で行なわれる「エミレーツ航空・伝説レース」(芝1100m)で、英国のミスター競馬、元騎手レスター・ピゴット(65歳)が、米国で女性初の競馬の殿堂入りを果たしたジュリー・クローン(38歳)等と共に、1レース限定の現役復帰をするニュースが伝わってきている。お遊びながら拍手喝采で迎えられるところも、いざ賭けの対象として、1ファンの立場に立ってみると、ためらい、尻込みしそうな気がする。

 66年エイトクラウン、67年タイヨウによる宝塚記念の連覇は、今で言えば武豊並みの技巧を駆使した産物であり、高度のテクニックでファンを魅了した絶頂期の当時を知る者として、現役復帰に興味がないわけがない。調教師サイドは戸惑いがあるだろうと思う。同業者として懇意にしていた間柄の者なら、気持ちは乗せてやりたいが、競馬に事故はつきもの。万が一を考えれば思いは複雑であろう。

 師弟関係にあった弟子で、現役調教師なら、師匠に頭を下げられると簡単に“ノー”とは言えないだろうし……。騎手でもそうだ。今まで“先生”と仰いでいた人が、高い所から降りて来た。古参が20歳で、新参者の70歳と競い合う変形。慣れる迄当座の間は互いにギクシャクした関係が続くのだろう。その先どうなることやら……。案ずるより生むがやすしということになるのかも。まずこれが決まらないとモノは始まらない。その受験の結果発表が待ち遠しい。

 

編集局長 坂本日出男

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