編集員通信


“調教師のバイブルは種牡馬登録書”

 栗東トレセンの調教スタンドは3階建てで、1階が、騎手、助手、厩務員の控室及び食堂。2階に調教師、カメラマン席があり、最上階が日刊紙並びに専門紙の記者席となっている。専門紙記者席の一部にいつの頃か白井、山内、新井に田中耕師が居候して久しい。いろいろ理由はあるのだろうが、採時したタイムが即座に分かる利便性が大きいようだ。

 なかでも白井師は話し好きで、聞きにくる者ならば誰彼なし、分け隔てなく種々の情報を提供してくれる。世界の競馬に精通しているのは、調教師になって間もない頃、社台の総帥吉田善哉氏(故人)から、“大学出なのだから英語は分かるだろう。これからは外国の競馬を知らなきゃあ遅れるよ。とにかく外国の雑誌を読みなさい”と勧められたのがきっかけとなり、米、英の競馬雑誌を読むようになったそうだ。特に種牡馬の登録書は片時も手許から離したことがない。ザ・ブラッドホース、スタリオンレジスターは、1750ページ近い全米の地区別(カリフォルニア、イリノイ、フロリダ等)リーディング・サイアー全書で、種牡馬のカラー写真入り。父母の血統をはじめ、成績や産駒数、レース出走数、勝利数に重賞勝利数、稼働率等々こと細かく記載されている。

 モノによれば1頭で何億円も投じて購入に当たる権限を委任されているわけだから、事前調査をいい加減にはできない。納得できるまでトコトン検討を加えた上で購入馬を決定する。その際種牡馬のカラー写真は誠に貴重な資料となっており、毛色とか、体形等を基準にして、産駒がどんな特長を受け継いできているかを確かめ、その将来性や適性を探り出そうとする。手塩にかけた数年後に、心象通りに育って結果を出してくれた暁こそ、調教師冥利につきる満足感を味わえる時。検討の対象となる種牡馬は年々歳々新しくなるため、まさに一生が勉強。一時たりとも立ち止まることを許されない。

 調教師は名の通り、調教によって馬を仕立て上げるのが本業だが、その前に、優秀な原石(素材)を発掘してくることがもっと大切な仕事である。世に名伯楽として名を残した人々に共通しているのは、馬を見抜く眼力の卓抜していたことであった。白井、山内師も、やがては尾形、武田文師に比肩する調教師として多くのファンに記憶されることだろう。

編集局長 坂本日出男

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