編集員通信


“厩舎探訪記パート3の芦谷さん”

 この度、芦谷有香嬢が週刊ケイバブックに連載したものをまとめた厩舎探訪記の3を出版した。紙袋一杯に詰め込んだ刷り上がったばかりの贈呈本をぶら下げて、1人1人に配って回っている。律儀なことに、我々にも署名入りの1冊が手渡された。馬たちの個性が分かる、調教師やスタッフの日常が分かるとの謳い文句通りで、知らなかったことが意外に多く、思わず“ふう〜ん”とか“へえ〜”とか頷くことが結構あった。栗東トレセン所属の厩舎のみが対象となって、1区分が24厩舎単位でまとめた3部作。都合72厩舎が収録されている。継続中の取材は今週現在で95厩舎ぐらい終わっている。尚、牧場探訪記等も、おまけのように末尾へ掲載されていた。

 調教師も様変わりしてきており、ひと昔前に比べれば相当取材し易くなってきている。40年ほど前に自分が現役として取材に当たっていた当時のテキときたら、人と話をするのは嫌いでなくとも、いざ、自分の管理馬を含む競馬の話になると、途端に口をつぐんで貝になってしまう人の多いこと多いこと。途方にくれて立ち往生したことが何度あったことか、今は妙に懐しく思い出される。時代は変わったなァと思うのは、個人個人の顔写真を見た時、押し並べてこの上ないような至福の表情をしておられる。あの先生が、と信じられないような笑顔。“コツがあるんですよ”と芦谷さん。“ご家族の話を持ち出すんです。お子さんや奥さんのことになると、どんなに強面の人でもにこやかな表情になる。例外なくネ”とか。いまだに何度も門前払いを食わされ続けている人が10人ほどいるそうだが、天性の明朗さ、人懐っこさで機会あるごとに取材の約束を取りつけようとし続けている。その逞しいこと。あの粘っこさはとても自分の真似のできることではない。「成績が良くなる迄待ってくれ」ぐらいは良い方。「取材されると馬が走らなくなるからダメ」とゲンを担がれる人、案外多い。勝負の世界だから当然。「引退してからにして」では厩舎探訪の主旨にそぐわないし、その手の人は絶望的。いろいろ苦労している。「イイんです。そのうち都合がつけばOKが出るでしょう。その時迄待ってます」と健気な芦谷さん。トレセンの人物誌の奥行きを更に広げて行く為に、この程度では挫けない。「行って来まあース」とマイナス2度の戸外へ元気良く飛び出して行った。

編集局長 坂本日出男

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