編集員通信


“明日の武豊、岡部を夢見て”

 今年の新人ジョッキー、東西合わせて10名が3月3日の阪神、中京、中山競馬でデビューした。そのうちの小坂が阪神で、川島は中京でそれぞれ初勝利を飾っている。月並みながら、何年経ってもフレッシュなジョッキーの誕生に立ち会えるのは楽しみなものだ。調教で乗っている姿には事前に幾度となく接している。鞍はまりがいいとか、追い出してからのバランスがいいフォームだとか、結構外野席の話のネタにされているので、予備知識として耳にも入ってきているが、所詮調教は調教であってレースではない。実戦とは別モノなのだ。調教を上手にこなせることは勿論、大切な仕事なのに変わりがないが、ファン側に立てばジョッキーは実戦で上手にとまではいわないものの、それ相応に自馬の力を引き出して乗って欲しいと思っている。どれだけ乗れるか、ここ1カ月が勝負でもある。

 デビューしてみて「実際のレースは思っていた以上に厳しいし、難しい」と、異口同音に感想を述べていた。競馬学校に存学中に何度かの模擬レースはやってきているが、同級生同士でやるのと、百戦練磨の先輩の中で戦うのとでは比較にならない。阪神で乗った小坂の初戦は1番人気の馬。いいスタートを切ったが、5〜6頭の外を、あたかもセパレートコースを走っているようにまっ正直に回ってきていた。「他人に迷惑をかけないように」といわれていたに違いない。スタートさえ五分に出てさえいれば、あとは掴まっているだけで勝てるぐらい力のある馬を用意されており、ジョッキーに“余計な細工はいらない”という含みはあったはず。ところが、気持ちがたかぶり落ち着きを失って「頭の中がまっ白でした」と。しゃあないがなァ、デビュー戦やもん。

 しかし、2回目となった7Rでは、本来の平静さを取り戻して汚名返上の力戦。“武豊さえマークして行けば何とかなる”といった感じのアドバイスがあったと推測する。3分3厘からは押っつけ押っつけ、とにかく離されないように食らいついている。4角を含めたコーナーリングも及第点。あの形で直線まで持ってくれば、3キロの負担重量の差がモノをいってくる。何より天下の武豊に追い勝てた事実が自信にならないはずがない。負けて覚えるのが競馬なら、勝って覚える競馬も沢山ある。今は子供、子供している顔つきが、こうした経験の積み重ねで半年もしないうちにひとかどの騎手の顔になってくるのだからえらいものだ。1年後はどんなジョッキーに育ってきているのだろうか?スミヨンぐらいなジョッキーに1人ぐらいはなって欲しいけど。さて、どないなもんやろか。

編集局長 坂本日出男

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