編集員通信


“厩務員は常に危険と隣り合わせ”

 3月7日(水)トレセン調教スタンドで、坂路のモニターテレビ画面に見入っている横へやってきた崎山厩舎の原口厩務員。いろいろと話しかけてくるのだが、頷きと生返事ばかりの当方。そのうちだんだん熱意が高じてきて、具体的に説明し始めた。

「坂本ちゃんなァ、俺の経験からいってこんな馬は絶対走るよ。人で例えれば餅肌というのかなァ。こうやって手の平をあてがうとピタッと吸いついてくるんやねん。そら、全然違うで」
“うん分かった、分かった。ところで、何ちゅう馬やねん”

「ああ、サンライズシャークや。小倉でデビュー勝ちし、その後特別2着。大西がなあ、これからも乗せて欲しいと頼んできたんやけど今度は藤田や。あれは関東やからしゃあないがな。ほれほれ1ハロンのとこ上がってきてるアレや」

“どのくらいのとこ(時計)やんねん?”
「やるのはDW、オープンのカリスマサンオペラと併走や」

 10分後にコースへ見に行くとちょうど4角を回るところ。

“内か外かどっちや”「内の方」“楽やないか桁が違うなァ”

 先行していたし、時計は平凡でもベテラン厩務員が誇らしげにいうはず。そして3月10日の朝、我々が阪神競馬場へ向けて出発しようとしているところへ原口さんが。

“何してんね、こんなとこで。アレ、どないしたんその足”
 左足はでっかいギブスで固められ、松葉杖をついた痛々しい姿。今日ゆきやなぎ賞(1番人気5着)に出走予定だというのに……。聞けば作業中に愛馬に両足で踏まれて骨折したとか。

“ちゃんと教育せんからや”
「いつもは悪さはせえへんいい子なんや。何もかも自分が悪い。構って欲しくてすり寄ってきていたアイツの気持ちを分かってやれてさえいれば未然に防げていた事故。自分の配慮が足りなくて、却ってアイツに申し訳なく思ってる」と。泣かせることを言う。

 常に危険と隣り合わせで仕事をしている厩務員を実感する。鉄を履いている蹄で踏まれたり、蹴られたり、はたまた咬みつかれたりで、中には死亡した人も少なくない。重傷を負わされながら、自分の責任だと言い張る。馬に罪を被せない。さすが名人厩務員だった父親の名を汚さない三代目厩舎人。“好やん、あんたも偉い”

編集局長 坂本日出男

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