編集員通信


“尻尾は垂直に下がるもの”

 坂路調教を映し出しているモニターテレビは記者席に7台ずつセットで2個所にある。そのうちの1台には、角馬場から追い馬場へと移動する通路が映っていて、この画面だけは後方から被写体をとらえている。その画面で確認することは歩く様。まず、淀みなく歩いているかどうか。アドマイヤカイザーのように、1回立ち止まる毎に2分ぐらい動かない。それを4〜5メートル間隔で繰り返すものもいるし、チャカチャカと落ち着きなく小走りに進んで行く馬、右へ左へと通路一杯を使ってジグザグに進む馬。蹴り上げたり、跳ねたりする馬、それはいろいろだ。調教師はその歩く姿も調子の善し悪しのバロメーターのひとつとしているから、片時も画面から目をそらさないで観察している。

 「この馬は片側のトモの力が弱い。そこが強化されてくればうんと強くなるんだがなァ」と隣で見ていた高橋隆師が呟く。一般的にはフォームでそのあたりを判断しているのだが“ひと目で分かる何かがあるの?”と聞くとすかさず返ってきた。「尻尾の位置。尾の差し方が生まれながらにして曲がっているのは別にして、尻尾というのは垂直に下がっている。それが、どちらかに傾いているのは、一方の力が弱いから」と。

 なるほど高橋隆師の指差した馬は、真ん中よりも左の方へ尾の重心が移っている。歩いているので、どれも一様に揺れてはいるが、揺れ方は左右対称。なのに、その馬だけは他と違っていた。「これでも現実にレースでは支障なく走っているけど……」パドックで誰が見てもその区別はつく。もっと走っても良さそうなのに、追い出されてから意外に伸びない馬の中にこの種のタイプがたまにいる。何か月後か、一変して驚かされた時には、尾は正常に垂れ下がっていた。記憶力の良いファンで、こうした変化を見逃さず、しっかり勝馬検討に活用して勝ち組に回ったという話も聞く。ただし、パドックを直に見れる立場にないと、役に立たない話だ。

 蛇足だが、高い尾付きだとか、尾離れがいいとか称されているのは、サラブレッドの品位を表現するものであって、能力をあらわすものではないから馬券には繋がらない。

編集局長 坂本日出男

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