編集員通信


“アグネスタキオン以後の主役は?”

 レースぶりがいつもと違う。“何か変やなァ?”とは思っていたが最終的には断然の1番人気に見事応え三冠の第一関門を突破したアグネスタキオンが、2週間後に左前浅屈腱炎を発症して残る二冠奪取を断念せざるを得なくなろうとは、先週この原稿(編集通信)を書いている段階で予期せぬことであったので、その報に接した時は唖然たる面持ちであった。

 思い起こせば、追い切りは坂路を乗ったあとにDWコースに入れて併走追いというのが通常の調教パターンなのだが、皐月賞時は何故か馬場入りを嫌がって指示に従わなかった。大事の前でもあり、無理強いせずにそのまま坂路で追い切りを済ませている。馬自身、既にその時点で体調の異変を察知していたのかも知れない。本番でのらしからぬ走りも、そうだとすれば符合しないでもない。倒れるまで走り抜く競走馬の悲しい性とでもいうべきか。強い馬、速い馬ほど発症する確率の高いこの疾病は志半ばにして競走場から幾多の優駿を引退へ追いやっている。骨折よりも質が悪く、後々までも競走能力に著しい影響を及ぼす“不治の病”とも呼ばれている難病である。

 テイエムオペラオーの鮮やかに過ぎる復活劇に沸いた天皇賞。悪天候にもかかわらず集い寄った10万の観衆は、昨年同様1頭次元の違う強さに酔った。ややもすれば沈滞気味のムードを吹っ飛ばして、その勢いでダービーでも忘れかけていた熱気を呼び戻してくれるのではとは、関係者の偽りのない気持ちだ。確かに面前に仁王立ちしていたアグネスタキオンが去って行ったことで、かなり数多くの馬にチャンスが生まれてきたと思う。馬券的にも、混沌として予断を許さぬ状況下だけに、面白みのあるレースになるに違いない。3歳の頂点を極めるレースということでは、強い馬がそれに相応しい勝ち方をしてくれることこそが最良なのだが、済んでしまったことを今更愚痴ってどうなるものでもない。

 外国産馬に初めてダービー出走の権利(最大で2頭)が与えられるようになったのは周知の通り。真っ先に名乗りを挙げたのがその名も“黒船”。仏へ拠点を移して活躍中の武豊が、その手綱を取る宰領役を任され、NHKマイルカップに続いて一時帰国するそうだ。斯くなる上は、興味の対象を新たにそちらの方へ切り替えることで、第68回東京優駿(日本ダービー)を楽しむというのもひとつの着想であろう。

編集局長 坂本日出男

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