“1000勝騎手の恩典が廃止に”
通算1000勝以上、厩舎経験が20年以上の騎手経験者が新規調教師免許試験を受験した場合、第一次試験のうち学力及び技術に関する筆記試験を省略する制度が88年度から実施されており、過去加賀以下8名がこの制度の恩典を受けて調教師へ転じている。2003年3月に交付される免許試験をもって、この制度は廃止することが決定した。 廃止の理由としては、騎手を取り巻く厩舎事情の変化によって騎手は競走への騎乗とその役割が専門化し、第一次試験を省略してもいいといえる裏づけがなくなったからと受け止められている説明がされていた。9月24日現在の東西リーディングトレーナー、ベスト10位で見ると、騎手経験(JRAで)のなかったのは西で5名、東で8名。特に近年は騎手経験のなかった調教師の業績向上が目立つようになってきた。 飯田明弘師が試験に合格した直後こう語っていた。「今までは騎手業に専念してきた。試験には合格したものの、実務については未知の面ばかり。幸いにも今は多少でも自由になる時間がありますから、牧場へ行って、たとえ僅かであっても生産から育成について触れてきたいし、JRAの海外研修を利用して見聞を広めたいと思っている」と。 現役騎手はシーズン中にレース以外で日本を留守にする場合は海外出張の許可願いが必要だし、幾らフリーでも自分勝手な行動は取りにくい。北海道の牧場へ行くのさえ、遠征を利用し合間を縫って、つかの間の見学に駆け回っている有様。騎手以外からの受験者と比べれば、厩舎経営全般に関する基礎知識、経験を修得するために必要とする時間を含め、機会が少な過ぎるのは否めない。 既に2000勝している岡部、河内をはじめ、1000勝突破の武豊等も期限内にこの制度を利用しない限り第一次試験の免除は無効となり、改めて勉強に取り組まなければならなくなった。元に戻されたわけで、不平を言っても始まらない。この際騎手業と調教師業は別のものだとわきまえ、調教師になりたければ調教助手と同等の立場に立って挑むことだ。映画の世界で、チャップリンのように脚本から監督、出演、音楽等一切を一人でやる人もいるが、一般的には監督業と俳優業は分離独立しているように思う。野球や映画と根本的に異るのは、厩舎経験という経営者の立場にある点だ。そのことが特に強調されはじめた昨今、騎手イコール調教師の線は徐々に薄れて行くのだろう。 編集局長 坂本日出男 |
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