編集員通信


“恩讐を超えた祝福のハイタッチ”

 マイルチャンピオンシップは、短期免許で来日したペリエが鮮やかに過ぎる辣腕ぶりを発揮し、テン乗りゼンノエルシドで快勝。ゴール入線後、ひと足遅れで寄り添ってきたタイキトレジャーの横山典とどちらともなく手を差し延べあって勝利の儀式ハイタッチ。聞くところによれば、競輪では戦術的にラインというのがあるそうで、ラインを形成することによりお互いの勝つチャンスが広がるメリットがある。

 古い話になるかも知れないが、史上最強のタッグと呼ばれたのは世界の中野浩一と鬼脚井上茂徳ペア。両雄は出身地が隣り合っている福岡県と佐賀県であり、年齢も近かったことからしばしば共同作戦で臨み数々のビッグタイトルを分取り合っている。どちらが勝っても、ゴール入線後のウイニングランでは互いの腕をひとつにして天に突き上げ場内を1周していたものだそうだ。

 競馬においてもさして珍しい光景ではないのだが、今回のペリエと横山典のケースは、普通人の考えとしてはわだかまりがないのか、と不思議に思えた。というのも、ゼンノエルシドはスプリンターズSを1番人気で完敗、乗っていたのは横山典だった。直線へ向いた時の手応えからは、勝ちを意識しておかしくなかったそうで、「今日は駄目だったが、素質のあることは間違いない。またこれから頑張る」と捲土重来を誓った直後の一戦だけに、マイルチャンピオンシップは余計に自分で戦いたかったのではなかろうかと想像する。タイキトレジャーもお手馬だし、それはそれで手駒に不足はないだろうが……。

 最終的に騎乗者を決定する権限を持っているのは調教師。両馬の管理者藤沢和師が断を下したわけだ。調教師と騎手の関係は一期一会のつき合いではない。乗り替わりについてはジョッキーの方から異義を唱える筋合いのものでもない。それはそれで割り切っている。勝敗の帰趨が明らかになった時点で、そこまでのしがらみを一瞬にして消し去り、素直に勝者を称える一流プレイヤーらしき懐の広さというもので、俗にいうところの美しい光景。残念ながら度量の狭い小生には到底真似のできそうにないことだが……。

編集局長 坂本日出男

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