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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
ペナルティー






 

◆“ペナルティー”

  吉野家の牛丼が姿を消した。テレビや新聞で大々的に取り上げられてはいたが、個人的にはなんの感慨もなかった。何故かと考えてみたところ、おぼろげな記憶の糸をたどって気づいたことがひとつ。私自身は一度も牛丼というものを食べた経験がなかった。北海道で生まれて、東京、京都、宝塚、大阪、滋賀と転々と本拠地を変えてきたが、いまでも家からそう遠くないところに吉野家がある。

 なのに、一度として噂の牛丼とやらを食べた経験がなかった。こんなことなら一度ぐらいは食べてみるべきだったとも思うが、時すでに遅し。まあ、BSE問題が解決したら一度ぐらいはとも考えているが、ステーキにしてもしゃぶしゃぶにしても、うまいと思いつつ100グラムも口にすればそれ以上は肉類を受けつけないのが私の胃袋。計画倒れに終わりそうだ。食生活は地域や年齢によってそれなりの差がある。困窮生活を続けて、雑食生活でなんとかここまで生き延びてきた私には好き嫌いがほとんどない。しかし、一生口に入れまいと決意したものがひとつだけある。

 競馬ブックに入社して間もない頃、出張先の名古屋でとある『ゲテモノ屋』に入った。会社の先輩に誘われて晩飯を食いに行ったのだが、そこはバッタの佃煮や蛙の造りといった怪しげなメニューばかり。蝮の蒲焼きをつつきながらビールをグビグビ飲み干している我々の前に出てきたのは馬刺し。生姜醤油で食べてみるとなかなかいける。思わず『お代わり』をしてビールと馬刺しをたらふく胃袋に流し込んだ。満足してその店を出て、その後は二軒三軒とはしご。そして最後はいつものように泥酔した。

 その翌日の中京競馬場。日曜日のメインレースが終わった直後にテレビに映し出されたのは京都競馬場で行われている日経新春杯の映像。66.5キロという常識破りの酷量を背負ったテンポイントが3コーナー過ぎで競走を中止。その横で悄然と立ち尽くす鹿戸明騎手の姿がアップで映し出された。最強馬として、そして稀代のアイドルホースとしてファンに認知されていたテンポイントにとっては、海外遠征に向かう壮行レースがこの日経新春杯だった。数カ月の闘病生活の後、最強馬は安楽死処分となった。

 中京競馬場から栗東へ帰る2時間ほどの車中。先輩と私は無言のままだった。日経新春杯の事故は想像以上に応えた。あれ以降、馬肉はもちろんソーセージ類も口にすることができなくなったが、馬との関わり合いを生業にしている限り、これくらいのペナルティーは当然だと思っている。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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