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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
救護体制・2






 

◆“救護体制・2”

  4月19日アップのこの欄で“救護体制”について書いたところ、読者の方からの問い合わせが相次いだ。その内容は騎手の立場を気遣うものが圧倒的だったが、同時に現在の救護体制を知りたいというものも少なくなかった。競馬サークル内の騎手や調教助手からの情報提供も重なり、事の重大さを再認識した。私自身がこの話題を取り上げた以上、放置したままではいかにも無責任でもある。それで、週刊競馬ブックの『一筆啓上』とこの欄で、改めて問題提起することにした。内容が重複することについてはお許し願いたい。

 まず問い合わせたのは日本騎手クラブ関西支部長の松永幹夫騎手。以前に調教中の事故で片側の腎臓を摘出する大怪我をしながら、それを克服して馬に跨り続けている人物だ。
 「竹本君の残念な事故があったあと、騎手クラブとして『競馬場で落馬事故が起きた際には、現場に駆けつける救急車に専門医を乗せて欲しい』と改めて申し入れました。でも、いまだに(4月28日時点)JRAから明確な回答はありません」

 この証言をもとに、広報室を通じてJRAに救護体制について質問した。

(1)開催日に詰めている医師の数。
(2)常駐している医師の専門。
(3)事故が起こった際、現場に駆けつける救急車に乗っているメンバーはどんな人間か。(医学知識の有無も含めて)
(4)騎手会(日本騎手クラブ)が「救急車が事故現場に駆けつける際に専門医を乗せて欲しい」と再三申し入れているのは事実か。
(5)申し入れ((4)の項目)が事実なら、受け入れられない理由を。

 この質問に対するJRAの回答は下記の通りだった。

(1)医師の員数は、競馬場の馬場の形態および規模による。4大競馬場(東京、中山、京都、阪神)では医師が2名。他に看護士が2名、レントゲン技師が1名。
(2)原則として、脳外科、外科、整形外科の専門医のほか、レントゲン技師、看護士が常駐。
(3)各救急車(馬場の形態および規模により2〜4台運用)に現在乗務しているのは職員、救護従業員。医学知識はないが、常に無線を携帯し、救護所に詰める医師と適宜交信して指示を受けて行動し、かつ、馬場を一望できるゴンドラに常駐する開催執行委員(職員)の指示により迅速な搬送を実行している。
(4)騎手クラブとJRAの打ち合わせの席上でも申し入れはあったが、各救急車に載せるだけの医師を確保することは、物理的に無理である。
(5)医師は、救護所においてその診療器具を用いて患者を診断した上で入院の是非を判断し、また、病院へ搬送する際にも初期診断の情報が必要となる。したがって、医師が競馬場内の救急車に同乗する事が必ずしも迅速な対応につながるとは考え難く、現在行っている救護体制が、迅速かつ確実な方法と考えている。

 以上がJRAからの正式回答(原文のまま)だった。ここで問題となるのは事故現場に駆けつける救急車に医学の専門知識のある人間が必要か否かという点。「大怪我をして倒れている騎手を救急車に移す場合、首の角度を少し変えるだけでその人間の人生が大きく変わってしまう場合がある。だからこそ、専門医に立ち会って欲しい」(前出の松永幹夫騎手)という騎手クラブに対して「医師数を集めるのは物理的に無理。医師が救急車に同乗する事が必ずしも迅速な対応につながるとは考え難い」とするJRA。話し合いは平行線のままだ。

 K―1やプロレスのリングサイドには必ず2名以上の医師がいて、いつでもリングに上がる用意ができており、より危険性の高いF1の場合は最新鋭の医療チームが常にスタンバイしていると聞く。時速60キロのスピードで疾駆する競走馬に生身で跨る騎手たちには、他の競技とは比べものにならないほどの危険がつきまとう。

 「落馬は怖いし、避けたい。でも、怯えていてはつとまらないのが騎手という職業。ゲートが開いたら集中して必死で戦っている。そんな俺たちが望むのは、せめて完璧な救護体制を整えておいて欲しいということ。それが叶わない限り、我々騎手は人間扱いされていない気持ちになる。それが悲しい」これはある現役騎手のコメント。

 人と馬との信頼関係が築かれてこそ成り立つのが競馬という競技である。なのに、現在の競馬サークルにおいては、『生命』という根幹となる部分で人間同士の信頼関係が崩れてしまっている。これでは競馬の健全な発展など、とても望めるものではない。それに、何故医師数の確保が容易でないのか。JRAは万難を排して騎手たちの申し入れを受け入れるべきだ。それが主催者としての当然の義務だと思うから。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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