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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
校正






 

◆“校正”

  『○○ダントツのトップ!』これは以前に週報の予想者ランキング欄の見出しとして出されたゲラ。最終校正の段階で発見して『○○断然のトップ!』とあわてて校正した。“ダントツ”という言葉そのものが“断然トップ”を略した俗語だからトップが重なってしまうのだ。以前にも『劇的なドラマ!△△△快勝』なんてとんでもないものがあって、『劇的なフィナーレ!△△△快勝』に校正したことがあった。詳細について細かく説明を加えるまでもないが、“劇”と“ドラマ”はどちらも筋書きのあるフィクションであり、競馬には筋書きがない。この表現は明らかにおかしい。

 普段だと起こり得ないこんなミスが生じるのは、たいがい日曜日の後半。2時半に次週の特別登録の第一弾がJRAから発表され、午後5時前後に最終的な特別登録馬が決定する。この2時間半ほどの間に集中的に原稿を書き、同時進行で最終校正もやらねばならない。時間にも気持ちにも余裕がないため、この時間帯にはミスの発生率が高まる。偉そうにこう書いている私自身もリーディングジョッキー欄の見出しでG2とG3を間違えたり、牝馬のレースに男性名詞を含んだ見出しを書く失態を演じたり。どちらも大事には至らなかったものの、思い出すたびにいまでも情けない。

 先日もダービー特集で『統括に乗り出した大王』とキングカメハメハを表現した見出しのゲラが出たところ、“統括”は“統轄”の方が正解ではないのかという声が一部から出た。しかし、皐月賞路線やNHKマイル路線、そして、その他別々の路線からダービーに挑戦してくる馬たちをまとめるのだから“統括”でいいという結論に達した。

 争点となるのが日本語なら辞書と首っ引きでなんとか解決の糸口ぐらいはつかめるが、これが外国語となるともうお手上げ。数カ月前には馬装具の名称が『pacifiers』か『horizonet』かで意見が分かれた。目の周りを網状のカップで覆う馬装具で、パドックでのイレ込み防止や実戦で集中力を高める目的で使用されているものについて、社として名称を統一すべきであるということになったのだ。「ホライゾネットは語源が商品名であり、後に会社名にもなっている。これならパシファイアー(なだめる人、調停人)にすべき』と正論を吐く人間がいれば、「語源は商品名でも、それがアメリカでは一般的になっており、競馬関係者の大半がホライゾネット(視野を覆う網)と言っている。ホンダやトヨタのように、当初は会社名だったものが普及するにつれて商品名に変化し、最終的に名詞として定着しているものも少なくない」と現実論で反論する者もいる。

 語学に堪能な知人の通訳数人に意見を聞いた上でこの馬装具をホライゾネットという名称で統一することに決めたが、今後も広辞苑や英和辞典抜きでは生きて行けそうにない私。こんなことなら若い頃にもっと学究的な日常を送るべきだったと後悔する昨今である。ごく稀に“ここまでの自分の人生を校正できたら”なんてことを考えてみたりするが、たとえ校正できたとしてもあれこれ回り道をするだけで、結局は競馬三昧の生活に戻ることになるのだろう。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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