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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
それぞれの原点






 

◆“それぞれの原点”

  待ち合わせ場所はJR草津駅東口から歩いて数分の場所にある店。私の方から誘ったこともあって、約束した時間よりも少し早めに目的地に着いて相手を待つ形になった。夕方の5時台でまだ外は明るいが、ちょっと躊躇しつつも「生ビール」の言葉が口をつくのはごく自然のなりゆき。

 「会ってゆっくり話すのは久しぶりですね」と言いつつ彼が姿を現したのは6時を回った頃。精悍な顔つきは変わらないが、表情そのものが以前よりも柔和になって見える。そういえば、ここしばらくはトレセンや競馬場でしか会ったことがない。仕事場や戦いの場の顔とオフに見せる顔とでは違いがあって当然とも考えつつ、飲み会がスタート。

 「最初の頃は“6時に坂路で併せ馬”っていわれても、どこに坂路があるのか、どうやって行ったらいいのかさっぱり判らん。“厩舎で跨ってからゲートへ行って、一度出してからEコースで上がり15―15”なんて言われて途方に暮れてた(笑)。だから、慣れるまではいろいろ気を使った。でも、いまはもう全然。俺の好きにさせてもらってますよ。栗東に追い切りにくるのも週一度だけにして、あとは家にいるぐらいだから」

 時間の経過とともに酒量が増える。生ビールを数杯飲んだあとは焼酎に切り替えた彼だが、表情も口調もまったく変わらない。とにかく酒が強いのだ。一方の私は、顔が郵便ポストのように朱に染まり、口数はそれまで以上に多くなる。週報の取材に立ち会ったりする場合は飲みすぎぬようにセーブしているが、今日はプライベートな飲み会。それに、私自身の正体なんてとうに看破している相手。取り繕う必要もないと勝手に気を緩め、飲んで喋ってしっかり酔っ払った。

 「いまは馬に乗れるだけで楽しい。だから、勝ち星なんかには全然こだわってない。いろんな競馬場で乗れるのも新鮮だし、ファンの声援も嬉しい。もう若くはないから、あと何年乗れるかは判らないが、そんなことをあれこれ考えても仕方ない。騎乗依頼がこなくなったらやめればいいだけの話なんだから(笑)」

 中央に移籍して1年半。騎手として素晴らしい成績を残しつつも、拠点を笠松に残した日常生活は以前と変わらないまま。「明け方にふと目がさめて、笠松競馬場の調教を見に行くこともあるんですよ」という言葉からも、決して自身の原点を見失うことがない彼の生き様が垣間見られた。

 時計の針が11時を回った頃に飲み会が終了。泥酔して帰宅した私は例によって途中から記憶がなくなっていた。その後の彼はというと、「予定通り5時すぎの調教に跨って、いい汗をかきました」とケロッとしていた。4日後の7月31日(土)には小倉のメインレース制覇を含める4勝の大活躍。奔放な騎乗ぶりが目立った。そして同じ日の私はというと、馬券で連戦連敗。原点ともいうべき困窮生活からはこの夏も抜け出せそうにない。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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