編集員通信


〈 ところで皆さん 〉

 1998年の中央競馬は有馬記念を最後に終了しました。年度代表馬は、タイキシャトルなのか、セイウンスカイなのか。注目を集めるところです。

 武豊騎手が自分の年間最多勝記録168勝を更新しました。本人が自分の持っている記録を破る。このケースはそう目立ちません。もし、これが、他の騎手によるものなら、もっともっと話題が沸騰する筈です。
 スプリンターズSの武豊騎手は、シーキングザパールに騎乗して2着でした。好位につけて競馬を進めるのが大方の予想。それが、最後方から。ハイペースを見込んでの騎乗だったのでしょう。勝ったマイネルラヴにはアタマ差及びませんでしたが、直線で見せた追い込みは本当に凄いものでした。この作戦は見事に成功したことになります。
 シーキングの時とは逆、差し馬で意表をつく逃げを打ち、大向こうをアッと言わせる。武豊騎手には、そんなレースもいっぱいあります。ですから、スプリンターズSの乗り方そのものには大した驚きはありませんでしたが、“ホント、うまい”と思わせたのがコース取りです。
 シーキングザパールは馬場の外目を伸びてきました。同じ外目でも五分どころもあれば、八分どころもあります。武豊騎手が通ったのは、芝の色が緑に変わった一番内目。馬場のいい所の最短コースでした。その場所を選び、その場所を通る。“違うなあ”とつくづく感じ入りました。

 阪神3歳牝馬Sはスティンガーが勝って、エイシンレマーズが2着でした。このエイシンレマーズという馬、3戦目1200mのもみじSを勝った時に、3〜4角にかけて使った脚は正しく一流オープン馬のそれでした。“ヨシッ、この馬ととことん付き合おう”。私、決心しました。
 ところが4戦目1400mのファンタジーSで、圧勝の手応えで来ながら、直線よもやの失速。その時、思ったんです。“ああっ、この馬は1200mまでの馬なんだ”と。私、アッサリ見放しました。

 そんな私ですから、1600mの阪神3歳牝馬Sでは、エイシンレマーズは検討の外にありました。ところが、直線凄い脚で差して来て2着。ア然、ボー然でした。何故1400mで止まった馬が1600mで走ったんだろう。
 騎手の腕なんです。“どうしたら距離を保たせられるか”。幸騎手が、考えて、見事に結果を出した訳です。最初の騎乗で、1400mで完全に止まったエイシンマリアンナという馬を、四位騎手は2度目の1400m戦ではギリギリ粘らせ、シクラメンSを制しました。

 どのケースも、馬に能力があればこそとも言えますが、競馬における騎手の役割、騎手の手腕を痛感させられた12月の競馬でした。レースが見える騎手、考える騎手の発見は有力な馬券戦術といえそうです。

 〈ところで皆さん〉。芝で圧倒的なスピードを誇る平成9年の桜花賞馬キョウエイマーチに、ダートGIのフェブラリーS(1600m、東京競馬場)挑戦のプランがあります。このキョウエイマーチ、ダートは2戦2勝。新馬のデビュー戦が2着のエリモシテンオー(その後、ダートで5勝して現準オープン)に大差(1.7秒)勝ち、3戦目の4歳500万特別が2着のタガノラピスに10馬身差。ヒョッとするとダートの怪物かも知れませんよ。1月31日を楽しみにお待ちください。

(競馬ブック関西デスク・井戸本征彦)

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