編集員通信


“話より雰囲気で知る好不調”


 GIレースで有力視されている馬の調教師、騎手は、追い切り後にJRA職員により設けられた共同インタビュー用の席で、民放記者クラブの中から選ばれたアナウンサーの代表質問に答える形式がとられている。調教師にしても、騎手にしても、忙しい仕事の合間を縫っての出席で、いっぺんに取材を終えられるのだから、能率的で喜ばれそうなものだが、実はそれだけではすまない。
 記者会見では、締めっくくりに希望する記者の個人的な質問も出来るのだが、所詮回答は通りいっぺんとうなもので、結局は、会見後に改めて別個に質問をぶつけている。ただ、スポーツ紙の記者は人の入れ替わりが多く、厩舎関係者とのつき合いが浅いため、単独取材のケースが少ない。いきおい顔の利くベテランを中心にした7〜8人のグループが、取材対象者をグルッと取り巻いて聞き込むやり方。専門紙の記者は共同取材を嫌う。あくまでも単独取材にこだわり敢行するので、調教師も騎手も二重、三重の手間どころか、同じことを1日20人以上もの記者に繰り返して話さねばならない羽目になる。

 因みにケイバブック社の厩舎担当記者の取材は1頭の馬について調教師、騎手は勿論のこと、調教助手、担当厩務員にも聞いて回っている。複数の意見を聞いてから最終判断を下すことで、専門紙と一般紙の違いをハッキリ出す努力をしている。

 共同記者会見の行なわれているフロアーで仕事をしている関係で、自分の意志とは関係なくスピーカーを通して会話が耳に飛び込んで来る。不思議と言うか、当然と言うか、弾んだ語り口、淀みのない受け答えをしている場合は、追い切った結果に満足している時。反対に、不満に思っているとおのずと言葉は湿り、重く沈みがちに聞こえてくる。内容は、聞く気になって聞いていないので、詳らかには知らなくても、言葉の調子でデキの善し悪しを察知出来る。

 たまに調教師と騎手とで、見方、受け取り方が異なることがある。その場合は、確率的にいって、不満足気な発言の方が真実に近いケースが多かった。
 もっとも、河内のように低い声でボソボソッと話すタイプは、とてもスピーカーから聞いていては判断出来ないが……。武豊あたりは“嘘のつけない”正直さがストレートに出ている。常に明るいのだが、それがより一層際立つ。
 天皇賞スペシャルウィークを語っている時は、今にも鼻歌が飛び出すのではないかと思うぐらい、浮き浮きした雰囲気の中でコメントしていた。

編集局長 坂本日出男

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