編集員通信


“海外修業へ飛び立つ若手”

 前日フランスのジャック・ル・マロワ賞に騎乗していた武豊が、22時間後には北海道旭川に戻り、ブリーダーズゴールドCを勝っている。私もヨーロッパ旅行は何度か経験し、12時間の飛行時間をすごく苦痛に感じているし、時差ボケで、帰国して2日間ばかり仕事に集中出来ないでいた。息子の同級生武豊と比べること自体間違っているかも知れないが、いかにファーストクラス利用(と思う)といえ、まるで国内遠征と変わらぬ感覚で好成績を残しているのにはただただ驚き、感歎するばかり。

最近とみに海外へ出向く騎手の数が増えてきた。武豊が先鞭をつけ世界を身近なものにした。弟の幸四郎も、以前後藤浩輝が単身で渡米、修業してきたフロリダのガルダー競馬場へ出掛けて行った。一応、最初の2日間は後藤が付き添い、厩舎関係者への顔繋ぎをして貰ったそうだが、あとは一切自分でやらねばならない。レースに乗せて貰える保証があるはずもない。レースに乗れなくとも、現地の馬や人に接し、雰囲気に触れることが自分にとってかけがえのない財産になる、との考えからだそうだ。敢えて“武豊”という知名度の高い兄の威光に頼らず、一介の若手ジョッキーの立場でぶつかって行く心意気がいい。

一方、小倉では安藤勝己の活躍にいたく刺激を受け、中央での騎乗機会の訪れるのを待ち焦れていた園田所属の小牧太が、サラブレッドを連れてやって来た。国外と国内の違いこそあれ、ひとつの枠を乗り越えて未知の世界へ羽ばたいて行こうとする、プロの心構えとして、絶えず向上心を抱き続けることは、中央であれ地方であれ同じことだ。武幸四郎や小牧は、やがて本拠地に戻って行く。そして、外部の空気を吸って来たことの成果を示せば、又それに続く者が出てくるに違いない。武者修業症候群も必ずや多数の人々から歓迎される風潮になるだろう。


編集局長 坂本日出男

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