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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
情報






 

◆“情報”

  「ワシはあまり喋らん。顔も怖いから誰も取材にけえへん。この馬のこと聞きにきたんオマエだけや。馬体重?430キロぐらいやな。ゲート?気が小さいから真っ先に飛び出しよる。出るの速いで。攻め馬やってへんて?ちゃんとやっとるがな。カッカした気性やから他の馬がいなくなった時間帯や馬場が閉まる直前にしか乗れへん。馬の姿なくなって記者が引き上げた後の時間帯に乗ってたってことやろな。まあ、時計なんかどうでもええ。黙って狙ってみ。いまの未勝利やったら、初出走でも楽勝するワ」

 舞台は25年ほど前の札幌競馬場。頬のこけた40代半ばの調教助手の言葉に痺れた私はその馬Aの単複連を握り締めて観戦。ケイバブック本紙が△印をつけた以外、他紙すべてが無印だったAは単勝40倍の人気薄だったが、楽勝。私は珍しく財布に入りきれないほどの紙幣を手にしたが、数日のうちに夜のススキノで散財。すぐにもとの貧乏生活に戻った。

 「ずっと捜してたんだよ、村上さん。ビッグニュース、ビッグニュース。いま、関東馬のBに乗って上がりだけサッとやったけど、ケタが違うよ、あの馬。明日はぶっちぎるから、勝負しな。他の記者には“動きは悪くないけどちょっと太い。息切れが心配”ってコメントしといた(笑)。だからそう人気にはならんと思うし」
 舞台は20年ほど前の栗東トレセン。土曜の早朝に仲のいい騎手Cに囁かれて身震いした私は有り金をかき集めて競馬場へ。4番人気だったBは直線半ばで失速。3着に敗れた。直後に「さすがC騎手。土曜の朝にあんないい動きしたのに、“息切れが心配”って中身ができてないの見抜いてたもんな」と呟く記者仲間の声を背に、ポケットにあるBがらみの馬券をゴミ箱に捨てた。「装鞍所で激しくイレ込んで、あの段階で終わってた」は後日のC騎手談。

 「今日のメインに出てる本命馬のD、昨日の夜に熱発したらしい。診療所の関係者から聞いたんだけど、40度近い高熱だっていうから、そんな状態ではまず走れん。外して買えば万馬券だぞ」
 舞台は15年ほど前の東京競馬場。記者席で原稿を書いている最中にとんでもない情報が飛び込んできた。断トツ人気のDが高熱を出したというのだ。記者席のかなりの人間がDを外して馬券を買ったが、私は見送った。直接取材した情報なら心が動くが、他人の仕入れた情報は私にとってあくまで噂でしかなかったから。レースでDは大楽勝。記者たちの馬券は紙屑となった。後日になって判ったことだが、“熱発”は“熱発”でも、40度近い熱を出したのは競走馬Dではなく、Dを担当する厩務員だったのだ。人から人へ噂が伝わっていく間に、いつの間にか話がすり変わっていたのだ。

 内勤のデスクになってからも困窮生活に変わりのない馬券下手な私を見て「○○が勝てるらしい」と厩舎取材班が教えてくれたり「△△の気配が一変」と調教班が囁いてくれたり。ときには「土曜○レースに使うウチの馬、いけると思うで」と携帯に電話してくれる厩舎関係者もいる。それぞれの気持ちは嬉しいが、情報はあくまで参考データのひとつとして処理している。馬券は自分で推理するからこそ、当たっても外れても熱中できるのである。 


競馬ブック編集局員 村上和巳

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「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」東邦出版HP


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