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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
名前






 

◆“名前”

  夏の小倉で落馬事故に巻き込まれて重傷を負い、九州の病院に入院していた常石勝義騎手が11月8日に京都市内の病院に移動した。当初はなかなか意識が戻らないので心配したが、徐々に回復してきたと聞いてまずはひと安心。新幹線が京都駅に到着した際にホームまで迎えに出ていた兄貴格の渡辺薫彦騎手が「ツネ、俺、誰だか判る?」と問いかけたところ、真っ直ぐに当人を見据えて「ナベちゃん、ナベちゃん」と同騎手の名前を連呼。ニッコリ微笑んだと聞いて嬉しくなった。まだ体の一部が自由に動かないため車椅子の生活を余儀なくされているらしいが、リハビリに励んで元気なツネちゃんに戻って欲しい。

  私のパソコンに次々と送信されてくる原稿の処理に追われて頭が痛くなりかけていた木曜日の午後。突然電話のベルが鳴った。「村上さん、テレビ朝日の報道部から名指しでお電話が入っています」と総務部の女性。なんでまたテレビ局がと思いつつ転送されてきた電話に出ると「わたくし、テレビ朝日の○○という者ですが、村上和巳さんでしょうか」とくる。「はい村上和巳ですが」と答えると「村上さん、この春に中東へいらっしゃってますよね。そのときの現地の情勢について……」と話は限りなく続く。途中で事態を察して「人まちがいですね。私よりもずっと著名で、もっと若い軍事評論家に村上和巳さんという方がいらっしゃるんですが、その方とお間違いのようで」と返答。「そ、そうでしたか……。当方の不注意で大変ご迷惑をおかけしました……」と○○さんは平身低頭。ことの顛末を興味深く見守っていた周囲は、電話が切れた途端に抱腹絶倒。私はただただ疲れた。

  厩舎取材を担当していた頃に苦労したのは厩務員さんの名前の確認作業。調教師や騎手、調教助手といった立場の人間は絶対数が少ないこともあって比較的スムーズに覚えられるが、人数の多い厩務員さんたちの名前はなかなか覚えられないもの。馴染みの厩舎の厩務員さんなら初対面の時点で自己紹介しつつ相手の名前も聞けるが、困るのは出張先。札幌、函館や小倉に出張すると馴染みのない厩舎の厩務員さんに取材するケースが多くなる。まったくの初対面なら相手の名前も素直に尋ねられるが、困るのは顔見知りで冗談を交わすレベルになっていて、なおかつ相手の名前だけを知らない場合。何年か前の小倉でそんなケースがあった。ジョークや世間話を交えつつたっぷりと取材。立ち去る間際になっても相手の名前が判らず、意を決して「ところでお名前を」と尋ねたところ、きつく説教された。

  「ワシの名前も知らんと話聞いとったんか。新聞屋さんやったら取材相手の名前を下調べするんが当たり前で、朝顔合わせたらおはよう、取材済んだらありがとう。挨拶と相手の名前を覚えるんは取材者の最低限のマナーちゃうんかいな。取材される側のワシらかて、新聞社の人の名前はなるべく覚えるようにしとる。ましてアンタとは数年来の顔見知りや。だからちゃんと名前覚えとるけど、これは一種のエチケットみたいなもん、いわば信頼関係や。これからは気いつけなあかんで。そやろ、“村山”さん」

  最後のひと言でこけそうにはなったが、あの厩務員さんの言葉は現場を離れたいまでも鮮明に私の耳に残っている。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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