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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
早朝の失態






 

◆“早朝の失態”

  ブルージーンにジージャン。黒のレザーキャップをかぶって黒の運動靴。右胸のポケットにボールペン、左胸には顔写真つきの通行証。そして右手に週刊競馬ブックを持ち、いざ栗東トレーニングセンターへ出陣だ。厩舎取材をしていた頃は資料満載の部厚い取材ノートが必須だったが、いまは週報一冊とボールペン一本だけ。内勤の人間の単なる調教見学なのだからまあ気楽である。

  午前6時26分にトレセンへ到着。調教スタンド一階に設置されている自動販売機で珈琲を買い、すぐ横のベンチに腰掛けてポケットから煙草を取り出す。ひんやりとした空気のなかで珈琲を飲みつつ早朝の一服。う〜ん、気分はもう最高。なんて悦に入った。しかし数分後、どこを捜しても灰皿が見当たらない。周囲を見渡すと壁に大きな『禁煙』の文字が。慌てて煙草をもみ消して外へ。いつからその場所が禁煙になったのかは判らないが、いきなりからのチョンボに出鼻をくじかれてしまった。

  調教が開始となる7時すぎには馬場の3〜4コーナーを白いモヤがすっぽりと包む。向こう正面の左手、つまり2コーナーあたりまでは視界があるのだが、追い切りのスタート地点となる6ハロン標識をすぎるともう真っ白。加速をつけて追い切る各馬の姿が忽然と白いモヤのなかに消える。「珍しく早起きして調教なんか見にくるからモヤが出るんや」と周囲から集中砲火を受けた。日頃から他人の失態を殊更に面白がったりとことんいじめたり。そんな人間性ゆえ、いざ私が窮地に陥ると四面楚歌。ただただ耐えるしかなかった。

  ハロータイムになって一階にある乗り手の控え室に入ろうとしたら、ヘルメット姿にあどけなさの残る若者が「おはようございます」と声をかけてきた。初対面にもかかわらず、きちんと相手の目を見て挨拶する姿に感心。
  思わず「北海道あたりから騎乗ぶりに勢いが出てきたな」とひと言。すると「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」ときちんと応対してくる。それまでのモヤモヤが吹き飛んで爽快な気分になった私は「これからも頑張れよ、藤岡君」と更にひと言。すると、戸惑い気味の表情を浮かべたその若手騎手は、ひと呼吸おいて「ボク岩崎なんですけど」とポツリ。「そ、そうか。し、失礼。岩崎くんも、あの、なんていうか、まあ、平地に障害にと元気いっぱいだよな。その調子で頑張れよ」とその場を取り繕った(つもり)だが……、疲れた。

  調教終了後に会社へ戻り、机に向って仕事を開始。ほどなく全員が出社して編集部にいつもの喧騒が戻った。仕事の合間に“騎手間違い”の話をしたところ周囲は抱腹絶倒。思い出して自分でも顔が赤らんだ。なのに、左横に机を並べるMときたら「オチにしようとわざと間違えたんでしょ」と笑いながら突っ込んでくる。「そんなわけないだろ」と主張しつつも、彼らにそこまで裏読みさせてしまっている自分自身の日常を反省するしかなかった。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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