コーナーTOP
CONTENTS
PHOTOパドック
ニュースぷらざ

1週間分の競馬ニュースをピックアップ

編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
審議ランプ






 

◆“審議ランプ”

 慌しい同時開催中の3月6日、日曜日。例によって週報の原稿校正に追われている最中に、中京競馬場から次のような“次走へのメモ”(3レース)が送信されてきた。「リトルブレッシング……シャドーロール(着用)。バラけた展開で揉まれなかった。ただ、あと1ハロンの地点で挟まる不利。審議ランプがつかなかったのはおかしい。さあ、これからという時だけに痛かった」というのがその内容。ある程度以上のキャリアがあって、なおかつきちんとした競馬観のある人間が担当しているこの“次走へのメモ”。基本的な内容は書き手の主観に任せているが、内容が内容なのですぐに中京へ電話を入れた。

  「あれは明らかに裁決(審判部)の見落としか不注意。あと1ハロンの地点で左右から寄られてサンドイッチ状態になり、そこでリトルブレッシングが怯んで下がっている。あれは誰が見ても不利。しかも、ゴール前のいちばん目立つ場所での出来事。明らかに不利な場面があったんだから、ファンに対して説明する意味でも、裁決はきちんと審議ランプをつけるべきだった」

  これが担当者の意見。すぐにVTRで確認したが、挟まれる瞬間の肝心な場面でカメラが切り替わっていて、リトルブレッシングが後退した瞬間だけは写っているものの、全体をきちんと確認できない。やむなく、現場にいた他の記者たちに意見を聞いてみたところ、それぞれが異口同音に「その結果がどうなったかは別にして、少なくとも審議ランプはつけるべきだった」の返答。反対意見が一人としていなかった時点で、この原稿を無修正で通すことにした。

  後日に知人のJRA職員と電話(非公式)で話したが、「週刊競馬ブックの記事を読み、担当者の見解を聞いてVTRでも確認しましたが、審議ランプをつけるべきかつけざるべきか、微妙な状況でしたね」という玉虫色の回答。苛立った。そこで思うのは審議の意味についてである。基本的には公正競馬を守るために、そしてレースそのものがアンフェアになったり危険なものになったりしないために審判部が目を光らせているわけだが、そんな審判部が主催者側としての独断で「審議の必要なし」と決めつけるのはどうか。

  翌週になっていろいろ調べてみたところ、直線で内側からリトルブレッシングに寄って行ったテイエムクラウンには以前から右にモタれる癖があった。そして、外側から押さえ込む形になったメイショウブンゴは少々気難しい面があって、追い出すとフラつく傾向にあった。しかも、このレースの直線では右から、つまり外からステッキを入れられていたのだ。各馬の癖をチェックして再度中京3レースのVTRで全体の流れを確認。致命的な不利があったとは言えないまでも、やはり審議ランプはつけられるべきだと思った。

  競馬ファンの中にはキャリアが豊富で目の肥えた人間もいれば、レースを見ても馬の細部の動きがほとんど理解できない初心者もいる。JRA審判部が「あの程度の不利なら審議の必要なし」と判断しても、見守る側のファンが納得せず、その判断が原因で競馬から離れる可能性だってあるのだ。そんなファン離れを防ぐためにも“疑わしきは罰せず”ではなく“疑わしきはまず審議ランプを”の姿勢が必要不可欠ではないか。たとえ発馬である馬が自ら躓いても、直線で勝手に外へ逃げたとしても、オヤッ? と思う場面があれば審議ランプをつけて場内放送できちんと説明する。これが真のファンサービスではないか。馬券を買ってくれるファンがいるからこそ競馬が成り立っているのだから。

  最後にもうひと言。30年以上も競馬を見続けてきた私のような人種でも、テレビでレースを見ていると、その横からの画面だけでは個々の馬がどんなレースをしたのか正確に把握できない。よりレースを楽しみ、より馬を知るためにも、JRAにはできるだけ早期に全レースのパトロールビデオを公開してもらいたい。


競馬ブック編集局員 村上和巳


競馬道Onlineからのお知らせ◆
このコラムが本になりました。
「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」東邦出版HP


copyright (C) Interchannel,Ltd./ケイバブック1997-2004