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競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
Kさんからの電話
”Kさんからの電話”
週報の天皇賞2週前レポとアンタレスSの厩舎レポの原稿作成が済み、珈琲を飲みつつホッとひと息ついていた土曜日の午後。会社に一本の電話が入った。受話器を取ってみると懐かしいKさんの声が耳に飛び込んできた。
「やあ、村上君、久しぶり。用事があって東京の会社に電話したら、君が私のことを尋ねてたって聞いてね。本来なら挨拶状でも出すべきだったんだろうが、結局はなにもせずにこちらの方にきてしまったから。申しわけない。うん、元気にしてるよ。長い間、働いたから、これからはノンビリしようと思ってね。倉敷にくるようなことがあったら、いつでも連絡しておいで」
独特のしわがれ声といかにも意志の強そうな話し方は昔とちっとも変わっていない。懐かしさも手伝ってついつい長電話をしてしまったが、Kさんは関東のある競馬専門紙の調教担当記者として長く現場で活躍した人物である。昨年一杯で退社して故郷の姫路に帰ったと聞いていたが、私の記憶違いだったのかそれとも別の事情があったのか、現在は倉敷に住んでいるという。
「馬っ気を出すなら出すで構わないんですが、中途半端なものをブラブラさせてるようじゃダメ。どうせ出すなら元気のいいシャキッとしたものを見せろと言いたいですね。そうじゃないんならさっさと引っ込めること。馬とはいえど、それぐらいじゃないと男の美学に反します。まして、これから勝負の場に出向くわけですから、こんな精神状態ではとても狙う気になれません」
入社して間のない私が夏の札幌へ出張したとき、いきなりラジオのパドック解説という大役が回ってきた。汗まみれになって型どおりにやれ太いの細いの、脚さばきが硬いの柔らかいのと必死で話したが、馬を見る目もなければ気持ちにも余裕がなくて完全にパニクった関西馬担当の私。一方、豊富な知識に裏打ちされた正確な観察眼と流暢で独特の語りが人気だった関東馬担当のKさん。東西の解説者の力量差は明白だった。発奮した私は調教師、厩務員に放送の時間帯に出走する馬の体の特徴、歩様の癖、好不調の見分け方といったものを取材しまくり、それをもとに必死で喋った。しかし、馬っ気に対する上記の解説でも判るように、型にはまらないKさんの奔放な解説の前ではそんな努力もまるで通用しなかった。大学卒業後に単身で渡米してサラブレッドを生産する牧場で働いた経験を持つ彼だが、そんなキャリアの違いだけでは片付けられない決定的な差が我々ふたりの間にはあったのかもしれない。
夏の出張先が北海道から九州に変わってからは疎遠になったが、中山や東京競馬場に行く機会があれば必ず記者席に顔を出してKさんに挨拶した。最初に会った頃は20代対30代だったのがやがて30代対40代になり、そして最後に会ったのは50代同士。顔を合わせるたびに「週報のコラム、いつも読んでるよ」と声をかけてくれていたのが、「君は内勤になったっていうし、私も好きだった北海道の出張がつらくなってきた」と漏らすようになっていた。互いに歳をとった。しかし、すべての面でKさんに圧倒されつつ、負けてたまるかと歯をくいしばったからこそ、私もこのサークルで生き続けられたのかもしれない。
「歳だからとか体調が悪くなったからというわけじゃなくて、素晴らしい存在だったパートナーがいなくなった。その段階でもういろんなものが途切れてしまったんだ。競馬?倉敷へきてからはやってないな。もう情熱がなくなってしまったから」
淡々とした口調で話していたKさん。独身の彼にとって長年連れ添った愛犬の死は想像以上に応えたようだが、「もう情熱がなくなってしまった」という言葉は寂しかった。倉敷という街には30年ほど前に一度行っただけ。夏の小倉に出掛けた帰り道にでも寄ってみたい気持ちに駆られるが、しばらくは自重するつもりでいる。彼から「気がついたらまた競馬をはじめていたよ」と連絡がくるまでは。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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1951年北海道生まれ。怪しげなROCK喫茶の店主兼使用人だった当時に競馬に熱中。気がつけば1977年に競馬ブック入社。趣味の競馬が職業に。以降24年間、取材記者としてトレセン、競馬場を走り回る。2002年に突然、内勤に転属。ブック当日版、週刊誌の編集に追われている。2003年1月からこの編集員通信の担当となったが、幾つになっても馬券でやられると原稿が進まない自分が情けない。
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