・リッカバクシンオ ・コパノフウジン ・ウインサウザー ・コスモフォーチュン ・ケイアイフウジン ・シンボリグラン ・マイネルアルビオン ・フェリシア
・マチカネメニモミヨ ・トーセンダンディ ・エリモマキシム ・ウインジェネラーレ ・カンファーベスト ・ウインクリューガー ・スズノマーチ
JR新宿駅に着いたのが11時半。驚異的な速さである。大幅に時間を短縮できたことで予定変更。まずは西口から数分のホテルに直行して余分な荷物を預け、チェックインを済ませる。残った荷物は肩からぶらさげた双眼鏡のケースひとつだけ。身軽になったことで更に気持ちが弾む。なんといっても今年初めての競馬観戦。ダービーが行われる東京競馬場へいざ出発だ。
出走馬がパドックに登場。尻っぱねするディープインパクトに周囲がどよめく。気を抜くことなく全力で走ることを覚えるために生まれて初めてステッキで叩かれた皐月賞。ピークの状態に仕上げるために初めて一杯に追われた5月18日の調教。すべてはこのダービーのためだった。初めて究極の仕上げで出走したディープインパクトが過去に例がないほどイレ込んだのは、ある意味では当然のことだったろう。出走馬18頭のなかで17番目の448キロという小柄な馬体が、前後を周回する大型馬と比べてもまるで小さくは見えなかった。それはレースがはじまっても同様だった。
「ナリタブライアンの強さも凄かったが、今年のディープインパクトはあのブライアンよりも強かったな」―そんな声が記者席のあちこちから溜め息のように漏れた。私自身も想像を遥かに超えたその強さに圧倒されつつ、歴史的な瞬間に立ち会えたことに気持ちが高揚した。どちらかというと虚弱な体質で競走馬としてデビューするまでに数知れぬ苦労があったと聞くディープインパクト。そんな馬の無敗での二冠達成には心を動かされた。エリートとされるSS産駒ではあっても、それぞれの馬にそれぞれのストーリーがあるのだから。
ダービーの余韻に浸りながら東京競馬場を立ち去ろうとすると、パドックの横に人だかりができていた。近づいてみると、なんとディープインパクト像(実物より少し小さい銅像のようなもの)が設置されていて、皐月賞時の14番ゼッケンを着けたその像の周囲では若者たちが記念写真を撮っていた。そういえば、開場当初はレープロと一緒にディープインパクトのポスターまで配っていたという話も耳にした。そんな一連のJRAの宣伝活動の実態を知って、朝からの爽快な気分が吹き飛んだ。
待望していたスーパースターの出現にJRAが有頂天になる気持ちは判らないでもない。しかし、主催者がレース前から有力馬のポスターを配ったり銅像を設置したりする姿はあまりにも見苦しい。芸能プロダクションがアイドル候補のタレントを売り出そうとする低俗なプロモーションとまるで変わらないではないか。そう考えると不愉快にさえなる。14万人もの観衆が集まり、そしてマスコミも近年では例がないほど盛り上げた今年のダービー。その売り上げが前年比100パーセントを切ったのは皮肉だったが、裏読みしてみるとそんなJRAの姿勢に対する拒絶反応もあったのではないだろうか。
感動というものは押しつけから生まれるものではない。ひたむきに走る馬がいるからこそ、そして、そんな馬たちが日々新たな歴史を作っていくからこそ我々はその姿を見守り、そして熱中するのである。歴史的な名馬に育つ可能性を秘めたディープインパクトを主催者の安っぽい思惑で“作り上げられた名馬”にはしてほしくないのである。 競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP