・チアフルスマイル ・ディアチャンス ・ヘヴンリーロマンス ・エルノヴァ ・レクレドール ・マイネヌーヴェル ・デアリングハート ・ダンスインザムード
これは偶然目にした8年前(1997年)の週刊競馬ブック・ブロードキャストコメンテイター欄(通称BCC)の私の原稿。当時の私は大好きな函館に出張していて、朝市の様子を紹介しつつ最後に短く推奨馬を書くというかなり強引な構成の原稿になっている。とはいっても、この種の原稿においては強引なのがいつもの私のスタイルであり、記者として生きている自分の日常を通してファンの方に競馬と関わることの楽しさを理解してもらえればと考えてのことだったが、時としてというか、まあ頻繁にというか、内容が大幅に脱線。上司に「もう少し競馬をメインにした原稿を書けないものか」と渋い顔をされたこともあったが、形ばかりの反省をしつつも自分の形を変えなかった懲りない私である。
明日のG1馬を夢見る若駒たちが次々とデビューしてフレッシュな戦いが繰り広げられた今年の函館開催も8月7日をもって終了。夏の北海道シリーズは今週から舞台を札幌に移す。「週報用の函館新馬総評書いたんですが、ちょっと行き詰まった箇所がいくつかあったので、時間があれば校正をお願いできますか」と電話してきたソップ型の小原靖博と「私が書いた先週日曜○レースの次走へのメモなんですが、読み直したら表現に微妙な違和感があったので、書き直したものを送信しますからよろしく」と連絡してきたアンコ型の甲斐弘治。厩舎取材と本紙予想を兼任する激務を2カ月間つづけた対照的な体型のこのふたり。彼らは函館競馬を存分に楽しめただろうかとふと思う。競馬を楽しみつつ職務上でも結果を出すというのが記者の理想の形だが、なかなか思い通りには運ばないのが現実なのだから。
『9週間ぶりに戻った我が家。“妻子は笑顔で私をねぎらい、それからは一家団らん。夜遅くまで笑い声が絶えず、楽しい会話は途切れることがなかった”―なんてのはあくまでTVドラマの世界。私が長期出張から帰っても、顔を合わせたのは僅か3分間(まるでウルトラマンかカップ麺)だけ。妻子それぞれは夕食の準備だの宿題だのとすぐに普段の日常に戻って私の視界から去って行った。ひとり残された私は飼っているシマリスの籠の前に立って「ただいま」とポツリと呟いてみたが、巣の中に隠れていて返事はおろか姿さえも見せなかった。まあ健全な一般家庭(?)の実態なんてこんなものなのである。男にはやはり仕事しかないということで、今週は阿蘇Sのコンゴウリキシオウで勝負』
これは同じ1997年夏のBCCの原稿。函館開催終了後に1週間ほど北海道で有給休暇を取り、9週間ぶりに自宅へ帰ってきたときのネタ。私生活を切り売りしているなんて大層なものでもなければ誇張した文章で必要以上に笑いを取ろうとしたわけでもない。まあ、出張が終わっても有給を取って牧場や地方競馬に足を伸ばしてばかりいた懲りない鉄砲玉みたいな私。年がら年中馬漬けで家庭を顧みることのほとんどない人間にとっては、出張が終わって帰るところがあるだけでも大いに感謝すべきなのである。
暇つぶしに推奨馬の成績を調べてみたところ、前半に引用した文中のエーケークリスタルは7頭立ての新馬戦で1番人気の支持を集めながら5着と完敗していて、後半の文章に出てくるコンゴウリキシオウ(現役のコンゴウリキシオーとはなにひとつ関係なし)は10頭立ての阿蘇ステークスで見事に1着となったが、単勝オッズ1.6倍という勝って当然の誰でも知っている実力馬だった。つまり、どちらもが読者にアピールするだけの価値を持たない馬だったという事実が判明した。競馬記者としては文章そのものがちゃらんぽらんなだけでなく、推奨した馬そのものも冴えなかったことに気づいて愕然とした。内勤になって3年半がすぎたいま頃になって8年前の夏のことを深く深く反省している私である。 競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP