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レースが終わるとゴンドラにある記者席を飛び出して曲がりくねった廊下を急ぎ足で2分ほど歩く。待つこと30秒ほどでエレベーターが到着してすぐにそれに乗り込む。数十秒で1階に到着。そこから迷路のような廊下を左右に駆け回ってやっと検量室の前に出ると、すでに顔や勝負服を泥まみれにした数人の騎手が戻っていて、それぞれが後検量をしたり洗面所で顔を洗ったり。その周囲は調教師や調教助手、裁決委員、ガードマンといった人間たちでごった返している。そんな人混みをさばいて久しぶりのレースインタビュー。ちょっぴりはしゃぐ気持ちになっているのが自分でも判る。
「珍しいですね、現場に顔出すなんて。いったいどういう風の吹き回しなんですか」 「1年ぶりで小倉にきたら、君が勝ったんで祝福がてらインタビュー班の手伝いに下までおりてきたんだよ。私に独占、密着インタビューをさせてくれるか(笑)」
「午前中の未勝利ぐらいで大騒ぎしないの(笑)。どうせ楽して僕だけしか取材しないんでしょ。次のレースは乗ってないから、このあとたっぷり時間があります。ゆっくりパトロールフィルムを見終えたらもう一回顔を出しますから、それまで待ってて」
そう話して一旦は検量室のなかに消えたE騎手。その後ろ姿を見送りながら、馬の予備知識がないまま安易な気持ちで声をかけてしまったことに気づいた。「おめでとう」とか「走ったな」と声をかけるだけで簡単に勝因を語ってくれる人物もいるが、そんな馴れ合い取材ではプロとして恥ずかしい。そう考えて競馬ブック当日版の紙面で勝ち馬のデータを確認。前走で初めて1000メートルを経験、今回がこの距離2走目であること。レースでは内にモタれる傾向があることなどをチェック。合い間に馴染みの騎手連中と冗談を交わし合ってバタついていると、数分後に再びE騎手が登場。
「え〜と、勝因でしたよね。まずは小倉に滞在させて正解。10キロ増で判るようにいい体つきになっていましたからね。初めて1000メートルに使った前走が4着だったけど、あの段階で距離適性ありとそれなりの手応えはつかんでいたんですよ、ええ。内へモタれる癖も徐々に解消していますし、今日のところは思い通りのレース内容でした。まあ、こんなふうにまとめれば、それなりの原稿になるでしょう」
久しぶりの現場で集中力を欠く私の心情を察知したのか、簡潔にして中身のあるコメントをしてくれたE騎手。いつもいつも彼には助けてもらってばかりである。
6階と1階を往復するのは一度だけでアゴが出たため、次なる仕事は週報の『次走へのメモ』を書くことに変更。これなら移動せずに記者席にいられると横着なことを考えたが、これもこれなりに大変。まず記者席のモニターでパドックの様子を観察。落ち着き具合、馬体の張りなどをチェックする。なぜ1階までおりないかというと理由がある。一旦パドックで馬を見ると、各馬が馬場入りして返し馬をする時間に記者席に戻れないのだ。パドックはあくまで個体とその精神状態に重きを置き、返し馬ではフットワークを重点的に見る。品評会ではなくてレースなのだから、双眼鏡で返し馬の気配を確かめるのが最重要項目と私個人は考えている。ところが、ここでも問題が生じてしまった。
私 「お〜い、13番の馬、ゴトゴトだな。人気してるけど、あんなんで走れるんか」
同僚 「あれぐらいなら問題なし。いつも硬い馬で、前走なんか脚が全然前に出なくてコケそうでしたよ。今日は最近ではいちばんマシでしょう」
私 「2番はどう見えた。いい感じに気合が乗っていて、体にも丸味があって。あれだったら誰が見ても買いたくなる雰囲気だろう」
同僚 「普段は気配の薄い馬なんです。めったに気合を表面に出しません。それに、どちらかというと細く映るぐらいの方が走れるタイプ。たしかに今日は良く見えるけど、まあ、これで走れんかったらイレ込み過ぎで体も立派すぎたいうことですわ」
レースが終わってみるとゴトゴトだった13番はスッとハナに立って楽勝。素晴らしい気配に見えた2番は追って伸びきれずに5着。馬は継続して見ないといけないとしみじみ思った。そして、ダービーの日の東京競馬場以来で今年2度目となる競馬場遠征は、またしても馬券戦線で敗北を喫したまま終わったのであった。
土曜の午後まで仕事に追われ、夕方の新幹線に飛び乗って現地入りする日程となった一泊二日の小倉遠征。数年ぶりのインタビューと『次走へのメモ』作成が妙に懐かしかったが、今回の強行軍には正直なところかなりの疲労が残った。現場取材を敢行するには明らかに体力不足になっているのが情けなかった。そして、競馬場をあとにして小倉駅に向かう途中で、肌に触れる風がいつの間にか秋を告げていることに気づいた。
最後に、グリーンチャンネルの人気No.1キャスターで週刊競馬ブック“オーナーサロン”でもお馴染みの芦谷有香さんがブログをはじめた。彼女の意外な一面を知ることができてなかなか楽しい。ファンの方は是非、目を通してみてください。アドレスは次の通り。 http://ashiyayuka.exblog.jp/ 競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP