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2年前のこの欄でも紹介したが、今年も明日の競馬記者をめざす学生たちが体験入社で栗東本社にやってきた。入社一次試験をクリアした総勢11人の若者たちは火曜の夜に栗東入りして弊社独身寮に宿泊。水、木の二日間は早朝4時前後に起きて調教風景を視察。それ以外の時間帯は我が編集部に詰めて競馬記者見習いとして日常の業務に取り組む。金、土、日はデスクワークに専念する形。土日の開催日は関西、関東、北海道の全レースをグリーンチャンネルで観戦。朝から晩まで競馬漬けの1週間を送ったのである。
出走予定馬の短評、本文の作成、テーマを決めての論文提出、レース予想、競馬場から送られてくる原稿の模擬校正と丸一日が競馬オンリー。立ち会い人の私としては息が詰まるんじゃないかと気遣ったが、そこは超がつくほどの競馬好きの面々。「次は何をさせてくれるんですか」と目を輝かせる人間たちばかり。書き上げた原稿もそれなりに形になっていて、なかには驚くような整った文章を書く若者もいたが、この段階で難しいのは彼らのポテンシャルをどうやって引き出すかということ。これは前述の馬券作戦にも合い通じる。
「競馬は好きです。でも一生の仕事にしてやって行けるかどうかとなると不安。あまり社交的ではない自分の性格を考えると、大学に残って研究室にでも入った方がいいかなという気持ちもあって迷っているんです」
A君は表現力、読解力があって処理能力もなかなかのものなのに、口数が少なく殻に閉じこもったままで自分をアピールしない。ジョークで気持ちをほぐしつつ会話してみると上記のような本音が返ってきた。現場取材よりは内勤の編集者に向いているかなと考えてみたりするのだが、能力は認めてもその評価が難解だ。
「競馬に関わる仕事をしたいと思っています。こと競馬の知識に関してなら他の誰にも負けない自信があります。夢が叶うんだったら勤務地はどこでも構いませんよ」 これは見るからに元気があって自信家のB君。書く原稿は粗削りながらパワフルで可能性を秘める。ただ、整った環境で自由に育てると大成しそうなタイプで、逆境に置かれて自分のリズムを崩すとモチベーションを見失いそうな危うさも漂う。閉鎖的で特殊社会のトレセンに対応できるかどうかとなると微妙な気もする。
「はい、いままではクラブばかりに熱中して、勉強なんか全然してませんでした。判りますか?競馬は好きなんですが、ワイワイと感覚的に接していただけ。単に印を打って馬券を買うだけじゃなくて、説明すべきその根拠を書けといわれて目が覚めました。いままで僕がやってきた競馬はお遊びだったってことですよね」
気取らず飾らず本音で生きているC君。原稿を書かせてみると誤字脱字が多くて内容も幼い。学業をほったらかしにしてスポーツばかりやっていたのがすぐ判る。当然ながら提出原稿の評価は低い。しかし、ちょっとアドバイスして反復作業をさせると格段の進境を示す。ここでまた考え込んでしまう。やる気さえ出せば光るものを持っている彼。いまの段階で完成し切っている人間よりは伸びる可能性がありそうなのだ。
4週間にわたる4組の体験入社が無事に終了した。別れ際に「とても有意義でした。もっとここにいたい気持ちです」「アッという間に終わりました。凄く充実した1週間でした」なんて名残り惜しそうな目で挨拶されるとすぐに情にほだされてしまう単純な私。できれば入社希望の全員を合格にしたい気持ちだが、私の立場は単なる試験官兼世話係。もちろん決定権はない。今回参加した11名の競馬好きの若者たちの前途が活気のあるものになるよう祈りつつ、自己表現をする人間たちでさえもそのポテンシャルを容易には理解できないのだから、競走馬の本質や適性を読み切るのがいかに困難な作業であるかということを実感した。
最後にCMをひとつ。9月20日発売の週刊競馬ブックはディープインパクトの顔写真が表紙になっていて、この表情が実にいい。弊社カメラマン四斗真宏(しとまさひろ)君の力作でもある。関心のある方はぜひ手に取ってご覧いただきたい。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP