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9月14日の朝にトレセンへ行った。坂路の一番乗りが馬ではなくて狐だった日(6月8日)の話を書いて以来の訪問なので、実に3カ月以上もブランクがあったことに気づく。足が遠のいていたのは馬や人が分散する夏場のトレセンは閑散としていてあまり盛り上がらない(個人的な感覚ながら)ことに加えて、4時台に起きるというのが至難の業でもあったのだ。しかし、今回は自分なりにテーマを決めたことでなんとか早起きができた。そのテーマとは“ローズS完全制覇!”だった。
この週のメインレースはローズS。登録馬にシーザリオの名前がないのは寂しいが、春に桜花賞とNHKマイルCを制したラインクラフトと昔馴染みの健ちゃん(野田健次郎厩務員)が担当するオークス2着馬エアメサイアがこのレースで対決する。健ちゃんの愛馬の最終調整をしっかり観察しておかなくては義理がすたるというもの。調教開始時間には坂路記者席に乗り込んでスタンバイOK。武豊&メサイアの登場を待った。
一番乗りの馬たちの姿が消えた直後に登場したエアメサイアは勾配のある坂路をモタれもせずに真っ直ぐに駆け上がってきた。タイムも半哩51秒5と優秀。それでいて余力があるのだから凄い。思わず記者席を抜け出して伊藤雄二厩舎に向かう。もちろん調教を終えて帰ってくるエアメサイアの馬体を間近で見るのが目的だ。
「こりゃまた珍しい顔やな。どないしたんや、こんな朝早くから。えっ、稽古の動きが良かったって。うん、ええ感じに仕上がったで。豊もこの動きなら合格って誉めてくれた。やってるオレは頼りないけど、馬の方は春よりもグンと良うなってる。レースが楽しみになってきたワ」
野田厩務員と軽く会話を交わしつつクールダウン中のエアメサイアを観察。毛ヅヤはいいし体もキッチリと仕上がっている。ようし、これでローズSの頭は決まった。次なるターゲットは春の女王ラインクラフトである。そう思って瀬戸口勉厩舎に出向いたところ、時間帯のズレで馬にも竹邑行生厩務員にも会えずじまい。やむなく福永祐一騎手が記者団の質問に答えているのを遠巻きに見守りながら、その内容を盗み聞きするしかない。取材陣のなかにはこういった間接取材専門の輩もいるが、人に見られたくない情けない姿である(汗)。
「一度使うとそうでもないんだけど、久々のときは概してテンションが上がりがちなタイプ。それに、掛かる気性なので初めての2000メートルがどうなのか微妙。そのあたりが課題になると思うが、仕上がり自体はいいので今回は能力の高さに期待してみたい」
といった感じのコメントをしていた福永騎手。取材の輪のなかに入れず2メートルほど離れた右前方から会話に耳をそばだてていた私。そんな情けない様子に同情したのか、こちらを向いてわざわざ会釈してくれた彼。気づかれたくないという気持ちもあったが、ばれてしまっては仕方ない。気遣いありがとう祐一。
他にもローズS組を取材して走り回ったが、他陣営からは色よい返事が返ってこないままトレセンを後にした。そしてレース当日の日曜日。私の選択した馬券は1着エアメサイア、2着ラインクラフトと2頭固定の3連単。3着候補には3番人気のエイシンテンダーと4番人気のサンレイジャスパーを消して、ヤマニンメルベイユ、ジョウノビクトリア、クリソプレーズ、ライラプスの4頭をピックアップ。最終的には財政上の理由でこの4頭のなかで最も人気している1頭を消して3点に絞り込んだ。いまから考えれば、この時点で“ローズS完全制覇!”は夢と消えていたのだった。貧困は人間の精神までをも蝕むのである(涙)。
レースは掛かって早目に動くラインクラフトをマークして機をうかがっていたエアメサイアが半馬身差をつけて快勝。馬券はともかくとして、私の推理は的中した。翌日のスポーツ紙では『本番もエアメサイアで決まり!』『掛かるラインクラフトに2000メートルは長い』という論調が目立ったが、果たしてそうだろうか。
いつもよりイレ込んでいたラインクラフト。そんな状態ゆえに普段以上に掛かるのを承知で外目の好位につけた祐一。しかも、馬に必要以上の我慢をさせず、早目スパートから押し切ろうとした強引な戦法には乗り手の意図を感じる。つまり、勝ち負けよりも正攻法で乗って、2000メートルの距離でどれだけやれるか試走させたのではないかということ。一方のエアメサイアは相手を徹底マークして進み、直線勝負で鮮やかにこれを捉えた。結果は完勝だった。ただ、気になったのは豊がGOサインを出して馬がその気になるまで数秒を要した反応の遅さ。京都内回りのフルゲートでそれが減点材料にならないかという点である。
本番では前に馬を置くことで乗り難しいラインクラフトを制御するだろう祐一と、瞬時に反応しないエアメサイアをローズSとは違った乗り方で操るだろう豊。今年のJRA・G1を勝ちまくっている彼らふたり(福永4勝、武豊3勝)の腕比べともいえる秋華賞。見応えのあるレースになりそうだ。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP