・ダイアモンドヘッド ・スーパーホーネット ・ディープエアー ・フィールドカイザー ・フサイチリシャール ・デンシャミチ ・フェイクフェイス ・ジャリスコライト ・ショウナンタキオン ・アポロノサトリ
久しぶりに福永祐一騎手の素顔に触れた。といっても直接会ったわけではない。NHK教育テレビ(日曜日19時)のトップランナーという番組にゲスト出演している姿を画面を通して見たのである。いまから7、8年前にはじまったこの番組は、様々なジャンルの第一線で活躍する人物にスポットを当ててインタビューするというスタイルになっており、競馬サークルからはこれまでに武豊と蛯名正義のふたりの騎手が出演していた。 「お金持ちになりたいから、女の子にモテたいから。そんな不純な動機で騎手をめざした(笑)。隣の家のお兄さんでもある武豊さんの活躍に刺戟を受けて、それがひとつのキッカケになった」 一語一句すべてを正確に再現しているわけではないが、上記のような飾らない本音トークで番組がスタート。以前に比べると語彙が豊富になっていて表現そのものも実に多彩。そして、競馬を知らないインタビュアーに対する説明も繊細にして丁寧。騎手としての自分の立場やサラブレッドに対する想いを伝えるコメントもなかなかよかった。10代の頃から知っている彼もいまや28歳。心身ともに充実期を迎えているようだ。 第25回ジャパンカップは英国馬アルカセットが勝った。直線で繰り広げられた各馬の激しい叩き合いには息を呑んだ。国際レースにふさわしい迫力があった。そしてランフランコ・デットーリ騎手の手綱さばきにはまたしても痺れた。これでジャパンカップ通算3勝目を挙げたわけだが、そのすべての勝利がハナ差というのもさすがだった。1996年シングスピール、2002年ファルブラヴ、そして2005年のアルカセットとそれぞれが人気薄の馬での勝利であり、そんな各馬の能力を極限まで引き出してのハナ差勝利なのだから価値がある。 10年ほど前の話になるが、栗東トレセンで一度だけデットーリ騎手と簡単な会話をしたことがある。ワールドスーパージョッキーズシリーズのヨーロッパ代表として来日したときのことだったと記憶しているが、片言のブロークンイングリッシュで迫る私に対して型通りの社交辞令で答えた彼だったが、その容姿、その立ち居振る舞いには圧倒された。ギラギラとした瞳の奥にある意志の強さとピカピカに輝くその存在感。騎手控え室に登場した彼のそばに近づける人間はほとんどいなかった。天才独特のオーラが彼を包んでいた。 ジャパンカップの勝利インタビューを受けているデットーリ騎手の姿を見ていて、ふと田原成貴のことを思い出した。強烈な意志を感じさせる独特の眼光とピカピカに輝くオーラを全身から発散していた元騎手の姿を。現役時代の彼はデットーリにも負けないだけの存在感があった。共通の知人から彼の携帯電話の番号を教えてもらって幾度か電話してみたが、まだ一度も声を聞いていない。東京在住の知人ライターから「年に2、3回は会っていますが、元気そうですよ」と近況を聞いて私自身の気持ちの区切りはついた。自分と接触することで迷惑がかからないようにと一切の競馬関係者との接触を断っているらしいとの話をある人物から聞いたが、そんな彼の心情を察すると“せんない”気持ちになる。 ここ数年の間にデビューした騎手たちにあまり強烈な個性を感じる人間がいない。私が歳をとって彼らとの年齢差が大きくなったことも原因のひとつなのかもしれないが、もっとヤンチャで元気のいい存在感のある若者の姿を見たい。競馬の華はやはり馬と騎手なのだから。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP