・タマモホットプレイ ・シーイズトウショウ ・ゴールデンキャスト ・マルカキセキ ・シンボリグラン ・ウインラディウス
・アドマイヤグルーヴ ・ショウナンパントル ・オースミコスモ ・ラインクラフト ・マイネサマンサ ・ライラプス
朝から晩まで音楽を聴いた。先日の休日のことである。まずはレーザーディスク(注・カラオケではない)をセットして1960年代前半のモータウンサウンドに浸り、その映像を凝視。10代のシュープリームスの若さに驚き、その歌の下手さに苦笑い。次に登場したのはテンプテーションズ。お気に入りの『マイガール』はいつ聴いても格好いい。そしてその絶妙な振り付けには改めて笑った。細部の振りや雰囲気は言葉では表現しきれないが、ラッツ&スター(デビュー当時はシャネルズ)というグループがいたのをご存知だろうか。顔に靴墨を塗ったあのグループがこのテンプテーションズのスタイルをコピーしていたので、あの雰囲気を連想していただければOKである。軽快にして楽しい独特の振りとともに再現される名曲にはいつも熱中してしまう。そして『マイガール』を聴くなら忘れてはいけない人物がもう一人いて、それからはオーティスレディングのディスクを延々とかけ続けた。この頃になると前週に馬券で負けたショックは吹き飛んでいた。
ひとしきりレーザーディスクに浸ったあとは思いついてLPレコードを聴いた。10年以上前に購入したレコードプレーヤーはもう何年間も放置したまま。果たして再生できるのかどうか不安もあったが、そんな気持ちは杞憂にすぎなかった。アナログ特有の優しくて柔らかい音質をきれいに表現してくれたのには感激。ともすれば無機的で硬質に伝わりがちなCDの音質とは微妙に異なる暖かさを実感して嬉しくなった。ここからはロバートジョンソン、セシルテイラー、プラターズ、マーヴィンゲイとジャンル不問のままLPを聴きまくった。ふと気がついた頃には日が暮れていて、当然ながら左手のグラスには酒が入っていた。そして、この頃には次週の馬券での大勝を根拠もないまま確信しているのだから懲りないオヤジである。
ある程度酔いが回り出した段階で今度はCDに切り替えた。レコードだと盤をかけ替えるのに限りなく気を遣う。滑り出しの針の落とし方からはじまって最後の曲が終わる瞬間にも神経を研ぎ澄まさなくてはいけない。加えて少々の振動にも弱いのでドタドタと歩き回ることも許されない。気に入った曲を聴いているとじっとしていられず体を動かす癖のある私でもあり、やむなくCDを聴くことにしたのだった。オールマンブラザーズバンド、ドゥービーブラザーズ、ロッドステュアートと続けるうちに盛り上がりは最高潮。フィナーレは今年6月に大阪厚生年金ホールで行われたジェフベックのライヴとなった。この日の大阪公演を扱ったソフトは市販されていないはずだが、当日のライヴの音源らしきもの(抜群の高音質)が何故か手元にある。もちろん、私自身は著作権法を侵害するような行為を一切していないのだが。
ほぼ泥酔状態に陥って突然昔の競馬のVTRが観たくなった。昭和50年代から60年代にかけて自分で編集した稚拙な構成のテープがまだ保存してあって、もう20年近くも放置したままなのだ。私が競馬に傾倒していった時期の思い入れのあるテープではあるが、その種類がなんとソニーのベータ。ある時期を契機にしてVTR市場はベータからVHS中心へと変わり、そして最近はビデオテープからDVDの時代へと変化している。こんな時代にベータの再生装置が身近にあるわけもない。やむなくDVDで数少ない昭和50年代の日本の競馬を眺めて気持ちの区切りをつけるしかなかった。
30年ほど前のレースを観て違和感があった。騎手たちは馬の背で風をまともに受けるような姿の天神乗りであり、個々の馬の肢体も現代のサラブレッドに比べるとどうも貧弱に映る。そしてレースの流れからもスピード感が伝わってこなかった。こんなふうだったかと何度か見直したが、印象は変わらなかった。音楽は時代を超えて認められ愛されるものが少なくない。なのに昔の競馬はあくまで過去の1ページでしかないのが少々寂しいが、このあたりはアートとスポーツの本質の違いなのだろう。だからといって昔の競馬を否定する気はさらさらない。そんな時代があったから、そんな歴史があればこそ競馬がより進化を続けているのだから。
先日、日本ウマ科学会のシンポジウムが東京文京区の東京大学農学部で開催され、『スターホースの走りを科学する』と題して現役競走馬が主役として取り上げられた。そのシンポジウムについては週刊競馬ブックはもちろん、他の様々なメディアでも報道されたので競馬ファンならご存知の方も多いと思う。競馬を取り巻く環境は時代とともに変わってきているのである。弊社からも若手記者のひとりが出席した。その彼が東京から「なかなか有意義な時間を過ごせました」と丁寧なメールをくれたときに、なんと私は大阪の梅田で酔いつぶれていたのだった。あ〜あ、もう救いようがない中年である。
今年はいろんな意味で流され続けた一年だった。今後、自分の日常が劇的に変化することはまずないだろうとは思うが、来年はもう少しだけ前向きに、そして、ちょっぴりでも学術的な生活を送ってみたいと考えている。そのためには、飲んだくれてばかり、過去に浸ってばかりではいけないのだが……。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP