・アドマイヤフジ ・エリモハリアー ・サイレントプライド ・サクラメガワンダー ・サンバレンティン ・ナムラマース ・フライングアップル ・マツリダゴッホ
滋賀を離れて半年が経過した。猫の額というのは狭さを形容する言葉だが、引っ越した先には“仔猫の額”ほどの庭がある。裏庭の中央部にはブルーベリーが植えてあって引っ越した当初からひよ鳥が周囲を徘徊していたが、実が熟す頃になるとその行動は更にエスカレート。空中をはばたきつつ嘴でブルーベリーの実をダイレクトキャッチしたり、細い枝にとまってその枝を折らんばかりにしならせつつ葡萄色に熟した実を巧みにもぎ取ったり。食べ終わると必ず“ケケッ”と啼いて満足げに空へとはばたいていく。最初にこの風景を目撃したときは茫然とした。次の機会からは排除すべく立ち向かったが、敵の方が一枚も二枚も上手。風のように突然姿を現して実をもぎ取り、気づいた頃には“ケケッ”と私を嘲笑うように啼いて去っていく。ひよ鳥の姿に慣れるに従って敵対心もすっかり薄れ、最近ではその俊敏な数羽の訪問客に“ひよ”という名をつけて黙って観察するようになった。あらがうことなく現実ををあるがままに受け入れることも時として必要のようだ。
自宅から地下鉄の駅に向かう途中に“なんでも貸します”という看板を出しているレンタルショップがある。ガード下の店にはショーウインドウ越しにバーベキューセット、自転車、抽選機(ガラガラ回すと赤や白の玉が出てきそうな)、くすだま、花輪(造花)といったものが無造作に並べられている。先日の飲み会で同世代の仲間に「“なんでも貸します”は誇大広告だが、SFっぽい匂いがしていい」とこの店を紹介したところ、各人が酔いに任せて話に乗ってくれた。出席者の借りたいものベスト3を人気順に挙げると「自由に使える時間」「衰えを知らぬ肉体」「失われた頭髪」に落ち着いたが、少数意見として「やり直せる人生」「的中馬券発売機」なんて図々しい声もあった。私も含めてここまでの人生を順風満帆に過ごしたとは思えない人間たちが集まった飲み会だというのに、それぞれが現実を受け入れつつも真っ直ぐに前を見据えて生きている姿には圧倒された。向かい風が吹くたびに飛ばされそうになり、ごく稀に追い風が吹いてもそれを生かす帆がない。そんな人生を送ってきた私。よくここまで生き延びられたとも思うが、今後もこの生き様が変わることはないだろう。
8月5日は私用で休みを取った。その前後に歯や右肩に異変が生じて消耗したこともあってこのコラムを休んだ。歯痛は慢性的なもので治療すれば一旦は治まるのだが、肩に痛みを感じたのは初めての経験。肘から先は普通に動かせるが、肩を中心にアクションを起こそうとすると鈍痛が走る。もともとが左利きなので手先の操作だけならそう影響はないが、荷物を持とうとしたり服を着替えようとするとズキンとくる。寝ていても姿勢を変えるごとにズキンときてなかなか熟睡できない。四十肩という言葉は聞いたことがあるが、この歳になって肩が動かなくなるというのも困ったもの。このままの状態が続くようなら大嫌いな医者通いをするしかない。そう考えると気が滅入ってしまうが、自然治癒を待つには年齢を重ねすぎているのだから仕方あるまい。
年齢を重ねているといえば、高知競馬所属の14歳馬ヒカルサザンクロスが8月11日のレースで3着に入線。95年10月のJRAデビューから実に11年10カ月目にして最多出走回数記録を更新した。251戦での総走行距離は340.9kmで、この馬の同期にはイシノサンデー(皐月賞)、フサイチコンコルド(ダービー)、ダンスインザダーク(菊花賞)がいる。ファンにアピールできる話題が高齢馬の最多出走回数記録という高知競馬の現状を考えると寂しい限りだが、それはともかくとして、私よりも遥かに年長のこのヒカルサザンクロスの頑張りには素直に敬意を表したい。最近はやれ肩が痛いだの暑いだのとボヤいてばかりで家と会社を往復するだけの日常が続いている私。もっと自分自身に鞭打ってトレセンや競馬場に馬の姿を見に行くべきなのかもしれない。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP