『いつまでも輝くということ』
スタート前に終わっていた前年(◎ペルーサ)よりはマシでしたが、出遅れ6馬身はいかにも痛かった。それでも、諦めることなく追い上げて、“これで突き抜けてくれば後世に語り継がれる勝利”、そう思った瞬間には鳥肌が……。さすがに坂上で伸びが止まったルーラーシップでしたが、夢に消えた私の馬券代、鳥肌が立っただけでも観戦料としては安いモノでした。 いつもと違ったのはこの日の観戦。G1は、と言うより、日曜のレース観戦は自分も含めて2〜3人で、という状況が何年も続いていて、今年などは“独りぼっちの観戦”も少なくなかったのですが、この有馬記念当日は中山9日目の新聞製作日。通常、日曜は競馬場に足を運んでいる内勤スタッフもこの日ばかりは美浦編集部から離れる訳にはいかず、ブックと研究ニュース合わせて10名近くでのG1観戦。それは私にとって新鮮でした。
ゴールの瞬間は隣にいた後輩から「ヨシ!!」の力強い声が。訊けば、それほど儲かった訳でもないらしいのですが、本人曰く「有馬記念だけは金額ではなく、勝てたかどうかが大事。勝って1年を終われるかどうかなんです」とのこと。そう言われて自身を振り返ると“負け終わり”だった記憶ばかり(正確に言うと、勝ち終わりの記憶がない)。ただ、いずれにせよ自分にとっても有馬記念は特別な意味を持つ“最終決戦”。それだけに個人的には、あれこれオマケをばら撒いてまで翌日に開催して欲しくはなかった。以前にもここで述べましたが、ドリームマッチの余韻の中で1年を終えたい。理屈ではなく、これは私の切なる願望です。 その後、滞りがちになっていた資料の整理をしたり、ブラブラと山を歩いたり、帰ったらコタツで猫とゴロゴロしたり……。そして、申しわけ程度に大掃除を手伝って、そうこうしてるうちに2013年に。いつもと概ね変わらない年末年始でした。
▼前回の巳年はどんな年? さて、新たな年の干支は巳。そこで、少々安易な発想ですが、前回の巳年である2001年はどんな年だったのか振り返ってみましょう。 当時の週刊誌を引っ張り出したところ、小誌が選定した2001年の10大ニュースは以下の通りでした。
@1000m直線競馬のリニューアル/新潟がオープン A天皇賞3連覇など大記録を樹立しオペラオー引退 Bステイゴールド他ドバイ、香港で日本馬大暴れ Cアグネスデジタル45年ぶりにマル外の天皇賞優勝 Dクロフネ1600、2100mで驚異のダートレコード E現役調教師が覚醒剤、銃刀法違反で逮捕される Fミスター競馬・野平祐二元調教師が鬼籍の人に G武豊騎手海外年間39勝、ペリエ騎手G1・3連勝 Hノーザンテースト20世代連続重賞V他記録更新 I地方の中津、新潟県競馬が歴史に連続ピリオド
振り返ると、前回の巳年にも色々なニュースがありましたが、トップを飾ったのは、日本初の本格的な直線コースの創設。これには私も同感。馬がひたすらにまっすぐ走る光景は、少々大袈裟に言えば、それまでの競馬の概念を変えてしまうくらいのインパクトでした。周回競馬に比べやや単調な面もあり、確かに、レースに起承転結が感じられないといった側面があることも否定できません。でも、スプリント戦の魅力が“全力疾走で勝負を決める潔さ”にあるなら、直線競馬こそ、その究極でしょう。 馬場の拡張や、右回り→左回りの大改修も含め、新潟コースのリニューアルからもう12年。“右回りの新潟”は、もう遠い過去のことになりました。
また、ノーザンテースト産駒の最後の平地重賞勝ちもこの年でした。クリスザブレイヴによる富士S制覇。骨折と脚部不安で2度の長期戦線離脱を余儀なくされた自身にとっても、これが悲願の重賞初制覇でしたが、この勝利により、ノーザンテーストは1977年生まれから20世代連続で重賞ウイナー(地方交流を含む)を送り出すという快挙を達成しています。
▼いつまでも輝くということ しかし、ゴールドシップ激走の興奮と、オーシャンブルー健闘の興奮覚めやらぬ今、この12年前の10大ニュースを見て改めて心に響いてくるのは、やはりステイゴールドの名前でしょう。当時の10大ニュースで取り上げられたのは、ドバイシーマC、香港ヴァーズと海外遠征で2勝の快挙。しかし、いかにもこの馬らしかったのは、国内での最終戦となったこの年のジャパンC。19度目のG1出走となり、国内G1最多出走記録を更新したことです(後にコスモバルクが更新)。古馬の芝中〜長距離G1皆勤賞(勿論、牝馬戦を除く)は1年だけでも大したものなのに、何と3年連続の皆勤賞ですから、本当に頭の下がる思い。内容的には“ステイゴールド”の名が皮肉に思えてくるくらい、善戦・健闘の繰り返しでしたが、引退レースとなった香港遠征でG1の香港ヴァーズに見事優勝。まさに映画のようなハッピーエンドで現役生活の幕を閉じたのでした。
○ステイゴールドG1挑戦の軌跡
それから干支がひと回りして迎える、新たな巳年の2013年。若き王者ゴールドシップの夢は膨らみ、オーシャンブルーもその名の通り前途は洋々、勿論、凱旋門賞でリベンジを狙うオルフェーヴルも健在です。現役時代は“金”というより“いぶし銀”。しかし、種牡馬としては、自身が挑戦した19回のG1のどの優勝馬よりもまぶしく輝くステイゴールド。いつまでも輝くこと、いや、輝きを増しつづけることの素晴らしさを、この2013年にも見せてくれることでしょう。
最後になりましたが、本年も宜しくお願い申し上げます。
美浦編集局 宇土秀顕