『五分咲きの風信子』
降雪による中止に見舞われたものの、正月開催はまたたく間の3週間。関東では早くも厳寒の東京競馬に突入しています。芝保護のためにダート戦が増えるこの開催。“寒風に舞う砂塵”は冬の東京競馬の風物詩でもありますが、それでも、以前ほど極端なダート偏重番組でなくなってきたことは確か。たとえば10年単位で遡ってみると、20年前の1993年は平地90レースのうち、芝が18、ダートが72。10年前の2003年でも91レースのうち芝が22、ダートが69(この年は中山代替でしたが)。ところが今年は平地91レースのうち、芝が39、ダートが52。厳寒期以外の開催と比べても、もはや、それほど大きな隔たりはありません。昨年のフェノーメノや2010年のペルーサのように、ここまでクラシックへの軌道に乗り遅れた3歳馬が、この開催でチャンスを掴むというケースもこれから増えてくるのではないでしょうか。
ただ、そうは言っても、この1回東京開催の目玉となるのは、最終週に控えるダート王者決定戦のフェブラリーS。開幕週にはその前哨戦・根岸Sも行われ、この開催の主役がダート馬であることに違いはありません。 ところで、注目のダート戦といえば、3歳オープンのヒヤシンスSもそのひとつ。今年の番組表を眺めていて気がついたのですが、そのヒヤシンスSが5年ぶりにフェブラリーSの当日に戻ってきました。この番組改定に関しては週刊競馬ブック1月19・20日号の「こちらラジオNIKKEI実況席」の中で、同局の小塚歩アナウンサーも大いに評価されていましたが、私もまったくの同意見。G1でもなければ重賞でもない、一介のオープン特別の些細なマイナーチェンジと言ってしまえばそれまでですが、個人的にはこの改定に大きな拍手を送りたい……。
1997年に芝のオープン特別からダート1マイルのオープン特別へリニューアルされたヒヤシンスS。以降、このレースは98、99年の2回を除いて、2008年までずっとフェブラリーSの当日に施行されていました。小塚アナも書かれていた通り、ダート頂上決戦直前のピンと張り詰めた空気の中、未来のダート王候補がそのフェブラリーSと同じ東京1マイルで競い合う……。そんな趣があったのが、このヒヤシンスSだったのです。 実際には、3歳時にヒヤシンスSを制した後、同じ“2月の東京マイル”に戻ってダート王に輝いた馬はサクセスブロッケン1頭だけ。2000年優勝のノボジャック、2003年優勝のビッグウルフ、2004年優勝のカフェオリンポスらは後にダートの交流G1ウイナーとして大成しましたが、この舞台に戻って頂点を極めることはできませんでした。そうそううまく、人間の思惑通りに事は運ばないもの……(笑)。 しかし、ダート王決定戦当日に“出でよ!明日のダート王”、そんな思いを抱いて見守れるもうひとつのレースがある……。そういった番組編成こそがファンの心を惹きつける魅力になる、自分はそう確信します。
●ダートで施行されたヒヤシンスS
さて、そのヒヤシンスSですが、京都で行われていたバイオレットSが2008年を最後に姿を消したため、現在、JRAではこのレースが世代最初のダートのオープン。その意味でも注目の一戦です。ただ、ここを勝ったくらいではまだまだ五分咲き。あのサクセスブロッケンのように、1年後、いや、2年後、3年後でも構いませんが、再び東京マイルに戻って頂点を極めてこそ、砂上のヒヤシンスは満開を迎えたと言えるでしょう。 ヒヤシンスの和名は“風信子”。その名は、戴冠の日を信じながら風の如く駆け続ける若者のようではないですか。
2008年のヒヤシンスSを4馬身差で完勝したサクセスブロッケンは、翌年、同じ舞台でフェブラリーSに優勝。カネヒキリ、エスポワールシチー、ヴァーミリアンら錚々たるメンバーを押さえての勝利だった
美浦編集局 宇土秀顕