『三者三様』
皐月賞戦線は既にトライアル3競走がすべて終了。“駆け込み出走”となる毎日杯も先週終了し、この週末に特別登録が発表されると、いよいよ本番へ向けてのカウントダウンが始まります。 ダービーの場合、有力馬のおおよその力関係は皐月賞で把握が可能ですが、その皐月賞は、有力馬同士が未対決のまま本番を迎えるケースもしばしば。それがレースの面白味となる反面、馬券検討上では頭を悩ませる要因にもなっています。端的に言うと、トライアル3競走のどの組を上位に取るかということが、皐月賞の検討では大きなポイント。昨年、非トライアル組のゴールドシップが勝ったばかりでは、いまひとつ説得力には欠けますが……。
▼TRの歴史を振り返ると…… さて、その皐月賞トライアルはご存知のように、弥生賞(G2)、スプリングS(G2)、そして、若葉S(OP特別)の3競走。G2の両レースは3着まで、そして、若葉Sは2着までに本番の出走権が与えられていますが、トライアルが現行のこの体制になったのは意外と新しく1991年のこと。ここで皐月賞トライアルの歴史を簡単に振り返ってみると……。 そのスタートとなったのは、今から45年前の1958年(昭和33年)。1952年に創設されたスプリングSがこの年に皐月賞トライアルに指定され、5着までに出走権が与えられたのが始まりでした。それから約四半世紀にわたって、スプリングS1競走による“出走権独占時代”が続きます。 この独占体制が崩れたのは1982年(昭和57年)。この年、同じ3歳重賞であり、スプリングSより3週前に組まれていた弥生賞の5着以内馬にも出走権が与えられるようになりました。ちなみにその1982年ですが、弥生賞を制したのがサルノキング、そして、スプリングSがハギノカムイオー。色々な意味で強烈に記憶に残る“2本立て元年”でした。 それから約10年後の1991年にトライアルに加わったのがオープン特別の若葉S。同レース優勝馬からは既にシリウスシンボリといった大物が出現し、その重要度は広く認知されていましたが、この年から2着までに出走権利が付与されることとなり、ここに“トライアル3本立て”体制が確立されました。これを機に、弥生賞とスプリングSの出走枠は5着以内から3着以内に縮小、そして、2000年には若葉Sが中山から阪神へと舞台を移して現在に至っています。 なお、1994年までの弥生賞と若葉Sは、正式には「トライアル」ではなく「指定オープン」ですが、話が少々煩雑になってしまうので、ここでは“本番出走権が設けられたレース”として、「トライアル」という表現でひと括りにしています。
▼個性を主張する3競走 ところでこれらトライアル3競走の優勝馬ですが、調べてみると、それぞれに異なった個性を主張しているのが興味深いところ。トライアルが3レース体制になった91年以降では少々物足りないので、2レース体制となった82年以降の31年間を対象に、各レースの優勝馬の皐月賞での成績、更には3冠競走の成績を振り返った結果が下の表。対象とした31年間で本番の皐月賞に駒を進めた弥生賞優勝馬は25頭、スプリングS優勝馬は24頭で、若葉S優勝馬は17頭となります。 まず両重賞優勝馬の比較ですが、出走数はほぼ互角。で、皐月賞での成績ですが、少々意外だったのは、勝率と連対率ではスプリングS優勝馬が弥生賞優勝馬を僅かながらも上回っている点でした。なぜならば“より有力馬が集うのは弥生賞”そんなイメージを抱いていたから。
◎スプリングS優勝馬は3着も最下位も一緒 ところがこうして成績を振り返ると、皐月賞で馬券になる可能性は、多少ながらもスプリングS優勝馬の方が上ということが分かります。ではなぜ、上述のようなイメージを抱くことになったのか? その理由はやはり、スプリングS優勝馬の皐月賞での潔いほどの負けっぷり(?)に尽きるでしょう。何しろ、出走した馬の半数近くは皐月賞で着順掲示板にも上がらず、更には、全体の3割近い馬が二桁着順を喫してしまう……。それがスプリングS優勝馬。「連に絡めなければどうでもよし。あとは3着でも10着でも、いや、最下位でも一緒」、あたかも、そう言いながら走っているような姿が目に浮かびます。 ◎ひとつでも上位を目指す弥生賞優勝馬 一方の弥生賞馬といえば、これが実に手堅い成績。本番で着順掲示板を外した馬は全体の約4分の1の6頭にとどまり、そのうち、二桁着順を喫した馬は僅か1頭のみ。8着よりは7着、7着よりは6着、6着よりは5着……。「たとえ勝負圏には届かなくとも、ひとつでも上の着順を目指して頑張る」そう言いながら、ゴールまで決して手を抜かないで走る優等生が弥生賞馬。こちらはまさに、馬主孝行と言っていいでしょう。 ◎若葉S優勝馬は少々控えめ 一方、若葉S優勝馬ですが、こちらは同レースに出走権が設けられた91年以降で3勝。皐月賞優勝馬輩出という点で他の重賞2組に対し明らかに劣勢。それでも、連対率では弥生賞優勝馬やスプリングS優勝馬と比べてもさほど遜色のない33.3%。「連対は果たす、でも優勝は誰かに譲る」、そんな控えめな姿が頭に浮かんできます。実際、91年以降皐月賞で2着馬を最も多く出しているのが若葉Sで、その数は10頭(重賞2組はそれぞれ5頭)。優勝馬だけでなく、若葉S組全体にそんな控えめな傾向が見られるようです。
▼秋まで届く弥生のそよ風 続いて、ダービーと菊花賞も加えたクラシック3冠競走の成績を比較してみると、一層際立ってくるのが弥生賞優勝馬の優等生ぶり。皐月賞ほどの数字を残していない他の2組とは対照的に、弥生賞優勝馬だけは、勝率、連対率、3着入着率、5着入着率と、すべてにおいて皐月賞からジワッと数字を上げています。中でも80%に届こうかという5着入着率は立派の一語。ちなみに、夏を無事に越して菊花賞に駒を進めた弥生賞馬17頭のうち、昨年のコスモオオゾラを除く16頭までが、その菊花賞では掲示板を確保。この堅実味はまさに特筆に値するものでしょう。 春から夏、夏から秋へと季節を越えて、中山2000mの弥生賞と京都3000mの菊花賞を結びつけるものは何なのか? まあ、その理由をあれこれと探る前に、まずは眼前に迫った皐月賞。今年はカミノタサハラが弥生賞を、ロゴタイプがスプリングSを、そして、レッドルーラーが若葉Sを制して皐月賞に臨むことになります。諸先輩に倣った三者三様の走りをそれぞれが見せてくれるのか、それとも、過去のデータにとらわれない独自のパフォーマンスをこのクラシック第一関門に見せてくれるのか……。4月14日の本番に注目しましょう。
美浦編集局 宇土秀顕