『記録で振り返るこの春』
今年は春の東京開催が6週+4週(後半の3回東京は番組上では夏季ですが)。いつもより終了が2週遅く、梅雨入りした東京では今も熱戦が続いています。しかし、その東京開催もいよいよ今週がラスト。本格的な夏競馬を迎える前に、様々な記録が誕生したこの春のGT戦線を改めて振り返ってみると……。
▼史上初の兄弟ワンツー
この春の記録といえば、まず桜花賞での兄弟騎手によるワンツーが挙げられるでしょう。ご存知のように、GT史上初となるこの快挙を達成したのはイタリア出身のデムーロ兄弟。大舞台でのこのワンツー、勿論、2人の確かな手腕があればこそ。しかし、優勝したアユサンが前日に落馬負傷した丸山騎手からCデムーロ騎手へ急きょの乗り替わりだったことを思えば、実力+運命的なものも感じさせる快挙だったと言えるでしょう。 ところでGTでは初の兄弟騎手ワンツーでしたが、重賞競走での兄弟騎手ワンツーというのは、中央ではこれが6回目。調べてみると、それら6回のワンツーのうち5回までは半馬身以内の差で、そのうち3回はクビ差の大接戦。一方で、2着と3着はすべて1馬身以上の差がついており、ほとんどが、まさしく兄と弟による一騎打ち≠ニいった様相を呈していたのは興味深いところです。
<兄弟騎手による重賞ワンツー>
▼1000m通過タイムを大幅に更新!
ロゴタイプが1分58秒0のレコードで快勝した今年の皐月賞。従来の皐月賞レコードを一気にコンマ5秒も更新した勝ちタイムは優秀でしたが、もうひとつ注目すべきタイムが、このレコードを誘発した1000m58秒0という猛ラップです。 以下に記したのは皐月賞1000m通過タイムのトップテン(東京施行年を除く)。手持ちの資料では1961年(昭和36年)までの記録しか調べがつかず、あくまでも同年までが対象のランキングですが、これによると皐月賞における1000m通過最速タイムは1994年にサクラエイコウオーがマークした58秒8(優勝馬はナリタブライアン)。1960年以前にこれより速い通過タイムが出たとはちょっと考えづらいので、おそらく、この58秒8が昨年までの最速通過タイムだったと推測できます。そして今年のコパノリチャード、この通過タイムを実にコンマ8秒も上回ったのだから大したもの。2位のサクラエイコウオー以降がすべて1〜2秒差にひしめく中、58秒0というタイムは群を抜く記録。この記録を破る快足が現れるのは、いつのことになるでしょうか? それにしても、こうして1000mの通過タイムを眺めてみると、カブラヤオーの逃げ切りはまさに伝説≠ニ呼べるものだと改めて実感させられます。
<皐月賞1000m通過のトップテン>※1961年以降、東京施行年を除く
▼タネも仕掛けもない若さ 今年11歳を迎えたトウカイトリックが春の天皇賞に果敢に挑戦。結果は11着に終わりましたが、これにより、同馬は実に8年連続で春の天皇賞に出走という、前人(馬?)未到の記録を打ち立ててみせました。ちなみに、トウカイトリックが初めて春の天皇賞に挑戦した時の優勝馬は、同期生でもあるディープインパクト。既にその産駒がターフを賑わしており、今回も2着がディープ産駒のトーセンラーでした。 なお、今年の春の天皇賞は4歳から11歳までの8世代が揃う多世代抗争となりましたが、8世代が顔を揃えたGTというのも、おそらく、かつてない出来事だったと思われます。
<春の天皇賞におけるトウカイトリックの蹄跡>
▼平地でも障害でも頂点に 3歳マイル王決定戦・NHKマイルCでは、柴田大知騎手が騎乗したマイネルホウオウが10番人気の低評価を覆して優勝。2011、2012年と中山グランドJを連覇している同騎手ですが、この勝利によって史上2人目となる平地・障害の両GT制覇を飾りました。ちなみに、この記録の最初の達成者は熊沢重文騎手。1988年にオークス、1991年に有馬記念、2005年に阪神JFと平地GTに3勝した後、2012年の中山大障害を制して史上初の両GTジョッキーに輝いています。
▼父仔の絆、人馬の絆 日本ダービーでは父ディープインパクトとその産駒キズナにより、ダービー史上8度目の父仔制覇が達成されました。ちなみにディープインパクトは昨年のディープブリランテに続き、種牡馬として2度目の父仔制覇。父仔制覇を2度記録した種牡馬はミナミホマレに次いで史上2頭目となります。なお、父にも仔にも同じ騎手(武豊騎手)が騎乗したのは初めてのケース。まさにキズナ≠フ馬名の通り、父と仔の絆、そして、馬と騎手との絆を強く感じさせた第80回のメモリアルダービーでした。
<父仔によるダービー制覇>
14万人近い大観衆の熱気に包まれたダービーを中心に、大いに盛り上がったこの春のGT戦線。その勢いが、夏を乗り越えて秋へと続いて欲しいものです。
美浦編集局 宇土秀顕