『真夏の体重調査』
夏時間の栗東トレセンは馬場開場が午前5時。今だとその5分ほど前に日が昇る。晴れた日の午前7時ともなれば日がジリジリと馬場に照り付け、黒くて大きな馬が重い足取りでEコースから坂路に向かったりしている姿を見ると、いかにも暑そうで気の毒だ。週刊誌のコラムの繰り返しになるが、表面積は辺の長さの2乗に比例し、体積は3乗に比例するので、サイズが大きくなるほど体積に対する表面積の比は小さくなっていく。同じ形の400キロと500キロでは、体積が1.25倍になるのに表面積は1.16倍にしかならない。したがって、大きくなればなるほど体内でできる熱は逃げにくくなる。そういうわけでシロクマやエゾシカは大きく、マレーグマや八丈島のキョンは小さい。これをベルクマンの法則というのだそうだ。でも、ゾウなんて巨大な割に暑いところに住んでるよね。耳が大きいからいいのか? 鼻で水をかぶるからいいのか? ゾウはともかく、これから本格的な暑さの中での戦いとなる小倉、新潟の夏競馬。大きい馬より放熱効果の高い小さい馬の方が強いのだろうか。そのあたりを確かめてみよう。ただ、調べるまでもなく、392キロで新潟記念(1983年8月28日)に勝ったアップセッターから、逆に612キロで阿蘇S(2010年8月29日)に勝ったクリーンまで極端な例はすぐに思い浮かぶ。見込みとしては微妙な結果、平均すれば当たり前でそりゃそうだろうという結果しか出ないのではなかろうかということはあらかじめお断りしておきたい。最後まで読んでも、時間対効果は恐らく少ないと思います。 データは昨年7月28日から9月2日までの2回小倉と同時期の新潟、12×2=24日間から採った。昨年8月の最高気温の平均は小倉(最寄りの八幡)が32.3℃、新潟が31.9℃だから、大阪(34.3℃)や東京(33.1℃)に比べるといくらか低いのだが、それでも十分に暑い。では、条件別に見ていこう。
●2歳(新馬、未勝利からオープンまで、のべ898頭) 全馬平均 :452.64キロ 1着馬平均 :458.49キロ 1〜3着馬平均:457.67キロ 芝(のべ789頭) 全馬平均 :451.36キロ 1着馬平均 :456.73キロ(最小406〜最大520) 1〜3着馬平均:454.92キロ(382〜520) ダ(のべ109頭) 全馬平均 :461.88キロ 1着馬平均 :471.00キロ(436〜506) 1〜3着馬平均:477.25キロ(436〜532)
平均よりやや大きい馬が好走していて、ダートではその傾向がいくらか強まる。500キロ以上の馬がのべ38頭出走し、うち16頭が小倉での出走だから、小柄で仕上がり早や=小倉というイメージは捨ててかかるべきだが、500キロ以上で勝ったのは小倉1頭に対し、新潟は4頭だった。出走馬の最小は350キロの九州産馬キリシマシュート。かといって、300キロ台は小倉の九州産馬の専売特許かと思うとさにあらず。小倉で8頭だったのに対し、新潟にも7頭出走しておりました。
●3歳未勝利(のべ1,375頭) 全馬平均 :463.89キロ 1着馬平均 :466.98キロ 1〜3着馬平均:465.19キロ 芝(のべ728頭) 全馬平均 :457.82キロ 1着馬平均 :457.42キロ(402〜526) 1〜3着馬平均:458.57キロ(402〜528) ダ(のべ647頭) 全馬平均 :470.71キロ 1着馬平均 :476.32キロ(422〜526) 1〜3着馬平均:471.65キロ(412〜536)
2歳に比べると1歳年長のぶんもあって全体が平均して10キロ近く大きくなっている。この条件も平均して芝よりダートの方が大きい。ダートの1着馬は平均よりやや大きいのが目立つが、まあ、普通そうですよね。ただ、全体で10キロ大きくなっているのに、1〜3着に好走している馬の平均は2歳の数値とそう変わらない点には注目しておくべきかもしれない。走れる状態に絞り込まれると、2歳も3歳も同じくらいなのかもしれない。これは恐らく季節に関係なくいえることではあるだろう。
●3歳上500万、1000万(のべ1,522頭) 全馬平均 :472.98キロ 1着馬平均 :473.63キロ 1〜3着馬平均:472.78キロ 芝(のべ877頭) 全馬平均 :467.62キロ 1着馬平均 :469.30キロ(398〜572) 1〜3着馬平均:466.54キロ(394〜572) ダ(のべ645頭) 全馬平均 :480.31キロ 1着馬平均 :479.67キロ(430〜540) 1〜3着馬平均:481.50キロ(430〜552)
このカテゴリも3歳未勝利と変わらない傾向だが、全体と芝の1〜3着馬の平均が全頭平均をわずかに下回り、ダートでも勝ち馬は全頭を下回る点が違う。芝での3着以内は最小394〜最大572と上下の幅が大きいなあ。390キロ台はいずれも小倉芝1200mの牝馬。最大は新潟芝2000m浦佐特別で勝ったミエノキセキ。ちなみにミエノキセキが勝った日の新潟の最高気温は35.9℃でした。明るい栗毛で顔に白い作が通っているおかげもあるのかな?
●3歳上1600万、オープン(のべ257頭) 全馬平均 :483.82キロ 1着馬平均 :479.88キロ 1〜3着馬平均:477.96キロ 芝(のべ169頭) 全馬平均 :480.13キロ 1着馬平均 :474.00キロ(438〜540) 1〜3着馬平均:471.09キロ(422〜540) ダ(のべ88頭) 全馬平均 :490.93キロ 1着馬平均 :489.14キロ(460〜516) 1〜3着馬平均:488.76キロ(444〜526)
500万と1000万でわずかに見えた傾向、全体の平均よりも好走馬の方が軽い傾向がいくらか強まった。ダートではそれほどでもないが、芝では1〜3着馬の平均の方が9キロも軽い。これはかなりはっきりとした数字といえるのではないだろうか。
高条件戦=メインレースが行われる午後3時から4時に気温のピークがくることは少なくないし、体感的にはその時間帯が最も辛い。憶測にすぎないが、特別戦からメインレースにかけては、放熱効果の高い小型馬の方が元気で、「ベルクマンの法則馬券術」が成功する可能性がいくらか高まるのではないだろうか。そうはいっても、クリーンが勝った2010年8月29日は最高気温が33℃(午後2時)、メインのころは31℃台だった(これも小倉競馬場最寄りの八幡のデータ)。体感では、ぐったりするのに十分な温度だろう。結局は大きさよりも能力差ということになるのかな。あと、2乗3乗の法則は相似形の場合にいえることで、たとえばずんぐりサウスヴィグラス産駒とスラッと薄いディープインパクト産駒では同じ体重でも放熱効果はずいぶん違うだろう。 この暑い中、馬の体重もひとつのファクターとして考えるべきではあるけれども、それより自分がどれだけ冷静に考えられるかということが重要なのではなかろうかという結論でいかがでしょうか。
栗東編集局 水野隆弘