『障害試験合否の基準〜栗東公正室』
毎週木曜、ツイッター(アカウントはrikobook)で、その日に行われた栗東トレセンでの障害試験について報告している。馬の名前と騎乗したジョッキーとタイムと合否。最近は気にかけてくれる方が増え、リツイートや@のレスも早く、“菊花賞馬ビッグウィークが障害練習開始!”のときなどは、とりわけ反響が大きかった。障害試験については情報量が少ないのでよく質問をいただくが、複数あるのが「なぜ時計が速いのに試験に落ちたのですか?」というもの。障害試験の基準とは一体何なのか? 1日(木)の試験のあと、思い立ってトレセンの公正室を訪ねてみた。
栗東では障害試験は毎週木曜日の後半の時間帯に行われている。いつ試験を受けるかは各々の調整の進捗状況によって決められ、受験する頭数は週によってまちまち。ゼロもあれば10頭超えの時もあり、単走か2頭の併せ馬で、1頭(あるいは1組)が終わったら、次がスタートする。
公正室によれば、基準はこう。 ・1600mを2分以内で走ること。 ・左右に行かず、まっすぐに飛べているか。 ・躊躇したり減速せずに、流れに乗れているか。 ・障害と障害の間の平地の部分や、飛び終わってからの4角、直線でも前進気勢がありスムーズ走れているか。
1600mを2分(東西共通)ならば1F15秒でOKだから、ずいぶんとゆったりした設定だ。試験は速く走るのが目的ではないので、道中でアクシデントがあったり、見た目に「これは遅い」という抑えたペースでなければ、タイムで落ちることはない。何をさておき、実戦で他馬に迷惑をかけたり、危険な目に合わせたりしないかどうか重んじられ、その技量が見極められる。左右に行くのは、行く方向の内外によって「内斜飛」「外斜飛」と言われるが、これは両サイドは勿論、後ろにつける馬にとっても非常に危険な行動。障害前に躊躇して急に減速するのも同様で、後続がつかえて前脚をひっかけてしまえば、落馬事故につながる可能性がある。平地の部分での前進気勢や走行については平地競走と同じだ。過去には障害をすべて飛び終えたものの、4角で物見して外に膨れてしまい、落第となったケースもあったという。どの場合にせよ「許容範囲」はあるが、それを超えている場合は、何度も繰り返し試験を受けなければならない。 試験官が観察するのは計4カ所。調教スタンドの3階(専門紙、日刊紙の調教班がつめる部屋の隣)では、(1)双眼鏡で横から、(2)モニターのパトロール映像で前から。また、コース内には対角線上に2つの小屋があり、スタンドを背にしして(3)右手前と(4)左奥で後ろからの姿を確認する。すべて終わると試験官が調教スタンド3階に集まり、協議され、合否が決まる。
この日はモンテクリスエス(09年ダイヤモンドS勝ち馬)が3度目の試験を受け、無事に合格した。2度の不合格の理由は、7月11日が「踏み切り不安定」「外斜飛」で、7月25日が「踏み切り不安定」。試験官によれば、「まっすぐ飛べるようになっている。多少詰まる(※踏み切りが近くて減速するという意味で解釈しました)が、許容範囲」とのこと。手綱を取る熊沢騎手は、それまで「大きな馬だし、年齢も上なのでなかなか自分からグッと行く姿勢を見せてくれない」と言っていたが、3度目でもあり、「勝負をかけて仕掛け、スイッチを入れて飛ばした」とのこと。560Kもあり、完歩も大きいため見た目の印象よりもスピードが出ていて、時計も101秒1→100秒8→96秒2と大幅短縮となった。
千里の道も一歩から。再スタートを切る馬たちの最初の一歩をチェックしてみませんか。
栗東編集局 山田理子