『お国自慢の心情』
先週の話題になりますが、高校野球、夏の甲子園大会が終わりました。 高校生の野球大会を、大新聞社が主催し、それを国営放送が全国ネットで全試合ライブ中継する。そのことに対する批判については、理解できるのではあります。 学校教育の中の部活動に過ぎないのに、マスメディアの異様な関わり方が無闇な商業主義を生み出し、「スポーツの本質を見失わせてしまう」といったようなこと。或いは“5打席連続敬遠”について、「勝利至上主義のなかではやむを得ない作戦」みたいな意見が「正論化」されてまかり通ってしまうこと、などなど。 それらの批判のいくつかは、まったくごもっとも、なのです。なのですが、いかに対象自体が素晴らしくとも、扱う人間の関わり方によっては、そういった負の部分を引き起こしてしまう可能性がある、ということも含めて、“高校野球”を観ていきたいと思うのです。何しろ、いろいろなことを考えさせてくれるきっかけになるので。
例えば、“高校野球”の定着、盛り上がり方。アマチュアのスポーツイベントとしては世界的にも他に例がないことらしいですが、なるほどそうだろうな、と思う反面、よく考えると「どうしてだろ?」という素朴な疑問も出てきます。それも、これは個人的な受け取り方かもしれませんが、春のセンバツ大会よりも夏の大会の方に顕著なよう。 長い歴史を刻んできた大会ですから、その理由や要因は多くの人によって、それこそ様々に語られてきました。ですから、ここでいろいろ考えてみても目新しいことはないかもしれませんが、ほんの少しだけ。 まず、野球というスポーツが持つ特質、だけではないですね。プレーヤーが高校生であることはひとつのポイントになりそうですが、でもインターハイや、それ以外の競技大会にあれだけの盛り上がりはありません。ですから、例えば炎天下の開催について“戦争中の精神主義をひきずっている”といったような批判はちょっと違ってるでしょう。 ただ、この炎天下というのはいいヒントで、おそらく夏が関係しています。「春のセンバツより夏の大会」というのは、いわゆる選抜された代表校が対戦する大会と、選手権を勝ち抜いてきた代表校が対戦する大会の違い、ではなくて、要するに季節感の違い。
夏。8月。 この2つのワードは、日本人にとって深いところに響くのではないでしょうか。2発の原爆投下と終戦記念日。そしてお盆。これらが開催日程とピッタリ重なります。お盆と言えば、地方から都会に出た人達が、大型連休を利用して故郷に帰るというビッグイベントを決行する時期。お盆そのものが、亡くなったご先祖様が帰ってくるんでしたもんね? とにかく、懐かしい顔が揃って、お茶の間でつけたテレビに都道府県を代表した高校生が、汗まみれ、泥まみれになって戦っている画が映し出されているわけです。 そして、実はこれが最も重要なポイントなのでは、と思えるのが、終戦とかお盆とか、故郷を否応なく思わせる絶妙のタイミングでの「都道府県代表」という意識づけ、です。 規模の大小を問わず、どんな職場であっても、いろいろな町の出身者がいらっしゃるでしょう。地元を嫌悪して都会に出た、という人には複雑な思いがよぎるのかもしれないですが、夏の甲子園大会には、多かれ少なかれ“故郷”を意識させる作用が働く。高校野球の定着の仕方の、大きな要因のひとつがこれかな、なんてことを思います。
ところで、この「都道府県別」の意識。この島国で、更に小さな国に分けて違いを考えたがるのは、つくづく面白い心理だと思いますが、県民ショー的なバラエティー番組が楽しく観れてしまうのは、まともにその心理を突くからでしょう。取り上げられるネタがその土地の、ごく一部の町内だったりすることもあるそうですが、それでも面白い。 比較文化人類学みたいで、と言うと大袈裟になりますが、カルチャーショックをテーマにした物語がコメディになりやすいのと根っこは同じなんじゃないでしょうか。
自分は故郷と呼べる土地を特定しにくく、大まかに西日本系としますが、関東で仕事をしていると、東日本の出身者と多く触れ合う機会が増えます。そこでのやりとりで東北の人が、「三重ってどこだっけ」とか、「和歌山は?」なんて言ったりします。逆に関西の人だと、「山形に海あったっけ」とか、北関東の三県の位置関係が曖昧だ、なんて話も耳にします(うちの弟も「ボクも自信ないで」と言ってました)。そういうやりとりってどこでもあるでしょうし、そこで生じる笑い話の中で「お国自慢」が始まったりするんじゃないでしょうか。 上記の話で言えば、三重については「伊勢神宮があるでしょ」というと、「伊勢神宮ってどこだっけ」と更にトボけられて、どんどんエスカレートしていきます。
「俳聖と言えば松尾芭蕉なんじゃないの」だの、「高度成長期最大のコメディアンって植木等でしょう」とか、「日本の野球で初めて永久欠番になったのは沢村栄治だよ」などなど出身者を並べ立て、最近のところでは「霊長類最強の女も三重の人だよ」とか。他にも日本で唯一、F1を開催してた時期がありましたし、大体、世界遺産もあるし、そもそも伊勢神宮みたいな…。
いやいやいや、だからこういうお国を自慢できるネタというのは、どの土地にもあるはずなんですって。
それなのに、印象が薄いというか、あまり知られていないところがあるのは、セルフプロデュースが得意な自治体と、そうでない自治体の差、なんでしょうか。 中身のないモノを大仰に喧伝する風潮がある中で(多くの場合、底が知れて失敗しますが)、正真正銘、唯一無二のネタを上記のように数多く持つ三重の場合は、典型的な後者になるようで、それは何だかもったいない…。
友人とのやりとりから、そんなことまで考えていたのですが、先日、久しぶりに三重に足を運んだ際に、今年から3年かけてキャンペーンを張ることになったことを知りました。是非、頑張ってください。 いやあ先に書いた通り、自分は故郷を特定しにくいのですが、思春期を送ったのが三重だという縁で、観光大使ぶるつもりなど毛頭ないのですが、ついつい肩入れしてしまいましたか。 しかし、栗東の水野編集員は、業界では数少ない三重出身者。彼なら、私などよりもっとこまかく魅力をお伝えすることができるでしょう。「リレーコラム」ということで、きっと話をつなげてくれる…ちょっと無茶振りかな?別にそういう趣旨ではなかったし。 そんなわけで、この件は、ここまでで。
高校野球からお国自慢のとりとめのない話になってしまいました。誠に申し訳ございませんでした。
美浦編集局 和田章郎