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競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
新人騎手デビュー

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◆新人騎手デビュー

 昭和53年、3月4日。全身で初勝利の喜びを表現しながら検量室に引き揚げてきた田原成貴。その底抜けに明るい笑顔と、瞳の奥にある強い意志。単なる新人騎手の初勝利の瞬間というよりは、なにか新たな時代がはじまる予感があったのを覚えている。

 昭和62年、3月7日。微笑を浮かべつつ淡々と関係者に挨拶をする姿。それは、初勝利のレース運びと同様に、大人びたというよりも、むしろ枯れたと表現した方が相応しいような、静かな風景だった。いまから思えば信じられないことだが、当時の武豊には、関係者以外で注目している人物はほとんどいなかった。

 平成8年、3月2日。その日は多くのマスコミが中京競馬場に集結。各局のTVカメラと束になったマイクを前に、取材陣と競馬関係者にもみくちゃにされながらの記者会見。想像を超えた喧騒に戸惑いつつ、初勝利の喜びを抑制して冷静に対応しようと努めていた福永祐一。その姿には天才二世が背負うものの重さを感じた。

 平成15年、3月1日。今年も阪神と中山で新人騎手が次々にデビュー。真っ先に初勝利を挙げたのは栗東中村厩舎所属の長谷川浩大(こうだい)騎手だった。出遅れて内々を追走し、4コーナーで外に持ち出し、直線では内へモタれる馬を立て直しつつそれなりに追った。馬が強かったのは当然だが、初騎乗ながら、それぞれの局面で無難に対処できたのは立派だった。中村調教師の好アシストも忘れてはいけない。

「勝てたのは嬉しいですけど、描いていたイメージとは程遠い騎乗になり、周囲の先輩騎手に迷惑をかけました。これからは、もっときちんと乗れるように心掛けて頑張るつもりです」喜びを噛み締めつつインタビューに答えていた同騎手。

 年々、騎手のフリー化が進み、遠征してくる外人や地方騎手の数は増加の一途。新人騎手たちを取り巻く状況は限りなく厳しい。しかし、そんな初々しい姿を見せつけられると、毎年繰り返されている見慣れた風景にもかかわらず、ついつい感情移入してしまう。それぞれが大きな事故もなく、まっすぐに伸びて欲しいなと思う。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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