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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
記憶力






 

◆“記憶力”

 悲しい事実に気づいた。以前から覚悟していたことだが、記憶力が減退して馬が判らなくなってきたのだ。キャリアの豊富な古馬ならなんとかなるが、新馬や2歳未勝利のような数を使っていない若駒のことはほとんど記憶に残らない。だから、午前中の未勝利戦などは新聞の能力表を眺めてもイメージが湧いてこない。土日に全レースを欠かさず見ていてこの有様。おのずと下級条件は馬券作戦の対象から外す。そうすると、更に記憶に残らない。悪循環である。だから最近は楽しめるレースの数が激減している。悲しい。

 現場担当で当日版に予想を載せていた頃からすると信じられない現象だ。老化である。若い頃は大半の馬の外観を名前だけで思い出せたし、その馬の父母の名もスラスラと口に出せた。好きな馬はデビューからの全成績を克明に記憶できていた。四十代後半になったあたりから減退する記憶力との戦いが始まり、印象に残る馬、次回の特注馬は条件別にしてフロッピーに書き込んで保存するなどして乗り切ってきた。しかし、内勤になり、予想を打つ必要がなくなった途端、集中力が途切れた。そして馬券の的中率も下降線をたどり、いままで以上により貧乏になってきた。

 数年前に“老人力”という言葉が流行った。衰えを新たな能力と置き換えてプラス志向で受け止めるという考え方だったと記憶しているが、これに習うと、忘れるということは、余分なことを頭の中に残さない才能が身に付いたという解釈になる。核心に触れずに物事を処理する才能、笑いを取るだけで人間関係を構築する才能、酒ですべてを流し込む才能、そして競馬で負けることに慣れ切っている才能……。ふと考えてみると、そんな才能の塊になってしまっている現在の自分に気づく。

 よ〜し、来週からは全馬の成績をファイルして、衰えつつある記憶力と戦ってみよう。そして、午前中の未勝利戦にどんどんチャレンジしてみよう。この歳になってみずみずしい感性を取り戻せるとは思わないが、若駒相手にもがき苦しむことも、いまのこの時期には必要なのかもしれない。半世紀を生きた結果として残ったのがこの手の才能ばかりではあまりに情けない。老人力を身につけるには、まだまだ時期が早く、修行も足りないのだから。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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