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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
インタビュー・2






 

◆“インタビュー・2”

  「豊の馬をよく掴まえたなって? 怖かったのはあの馬じゃなくて、俺の後ろにいた河内さんの馬。さっきから、『もっと早目に仕掛けていればヒヤヒヤせずに済んだのに』なんて俺を冷やかす声があるけど、それは間違った見方。正味300mしか脚を使えん俺の馬があと100m早く仕掛けていたら、前の馬はもっと楽に掴まえられたろうけど、俺の馬だって河内さんの馬に差されていた。つまり、前の馬をギリギリまで可愛がりつつ、同時に後ろの馬が動くのを極限まで牽制した。河内さんの馬だって俺が仕掛けないことには動けない。それは判っていたことだから。終わってみれば、あれでもコンマ1秒か2秒、動くのが早かったかもしれない」

 これは、ある重賞レースの直後に田原騎手が漏らした言葉。共同インタビューでは「気性が激しくて掛かって行くと甘くなる馬。そのあたりを考えて切れ味をフルに生かす騎乗をした。結果は出せたが、今後、距離が延びた場合にどう対応するか。それが課題」という無難な内容だったと記憶している。見た目には折り合いにこだわってポジショニングが悪くなり、その結果、仕掛けのタイミングが難しくなったとも映ったが、田原の本音を聞いて身震いした。騎手たちの、眼に見えぬ戦いの激しさが一瞬でも伝わってきたから。

 それまでの私のレース後の取材といえば「いつになく反応が悪かったな」とか「なぜあそこで外に出さなかった?」といった主観的な質問責め。騎手たちに煙たがられていた。この件があってからは「見る側としては動くのが早いと映ったけど、乗っている側の思惑は?」「好きで外を回った訳じゃないんだろ」といった風に乗り手の心理を考慮する形に微妙に変化させた。すると、それまで避けるように横を通りすぎていた人間たちの何割かが、愚痴ったり釈明にきてくれたりするようになった。しっかりレースを観察して冷静に質問をぶつけてみても、相手が答える気になってくれぬとインタビューにならない。かといって、取材相手に迎合してばかりではろくな原稿が書けないのも事実。そのあたりが難しい。

 セリエAの中田英寿、メジャーのイチローあたりはインタビュー嫌いとされているが、それが事実だとしたら取材する側にも問題があるのではないかと思う。「新聞に予想を載せて、署名原稿を書いてるんだったら、もっとしっかり馬を見て、きちんと取材しろ」などと騎手たちに突っ込まれている取材者を幾度か見た。競馬は自己表現をしないサラブレッドが主役とあって、より取材が難解。だからこそ、ファンとプレイヤーのパイプ役となるマスコミの果たすべき役割も大きくなってくる。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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