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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
JRAのCMについて






 

◆“JRAのCMについて”

  『♪ケヴォレ クゥエスタ ミュジカ スタセーラ……♪』という出だしのフレイズだけでこの曲がイタリア映画の主題歌だと判ったら、あなたはかなりの映画通である。えっ?イタリア語が滅茶苦茶で理解できない?ならば改めて『♪CHE VUOLE QUESTA MUSICA STASERA……♪』―これなら判ってもらえたかな。そう、1969年に公開された『ガラスの部屋』の主題歌である。友情と愛のはざまで揺れ動く若者たちを描いたこの青春映画は各国で大いに話題となり、当時は日本中のラジオからこの曲が流れたものだった。

  最近になってこの名曲をバックに暗いボヤキで売るお笑い芸人が出てきた。最初はあの名曲・ガラスの部屋を勝手にBGMにするとは許せんヤツと腹が立ったものだが「ヒロシです……、面接が取り調べに思えるとです。ヒロシです……」と情けないCMを繰り返し見ているうちに、不本意ながら親近感を覚えてしまった。次のネタをやるときはぜひ『二人の天使』か『誓いのフーガ』にして欲しいなんて候補曲まで考えているのだから、あ〜あ、恥ずかしい。それはそれとして、曲の選択や演出次第では幅広い年齢層にその存在をアピールできるというひとつの例ではある。

  舞台はコンビニか、はたまたスーパーか。食品売り場でカップ麺(だったように思うが)を手にした若いカップルの片方が「これって、ヨクナクナイ?」と相手に声をかける。背後でその会話を耳にした中年男性が、もうたまらないといった表情でそのカップルに声をかける。「ねえ、そのヨクナクナイって、いいの?それとも悪いの……」と。すると彼らの横を通りかかった別のお姉さんが微笑みながら「いいんですよ」と答える。わずか数十秒ほどのコマーシャルだが、ご覧になった方もいらっしゃると思う。

  このCMが流れるたびに苦笑いしつつ結構はまっている私。「良い」を否定すれば「良くない」になるが、日常会話のなかでは「良くない?」という疑問形もあって「危なくない?」「頼りなくない?」といった言葉の語尾の「……なくない」がひとり歩きして、この「ヨクナクナイ」という判ったようで判らない若者言葉が生まれたようだ。時代を巧みに風刺しつつ、見ている側をニヤッと笑わせる。そんなCMに出会うと、なかなか楽しい。

  昨年までは明石家さんまが出ていたJRAのCMが今年から中居正広に替わった。年明けから何度か目にしているが、見終えて伝わってくるものがない。前年までもそうだったが、著名タレントの持つ雰囲気に任せたまま目先のレースをアピールするだけなら、巨額の宣伝費を投入する意味がない。競馬の歴史をたどる重厚なシリーズがあっていいし、現場で馬とともに生きる人間たちを取り上げる素朴なものもあっていい。馬券を買えるようになった20歳以上の学生にターゲットを絞って彼らの競馬の楽しみ方を紹介する手だってある。そんな地味なCMでは宣伝効果がないというなら、その著名人の普段見せないような意外な一面を引き出しつつ、上記のような設定にリンクさせる手法だってある。もっと馬の息遣いが伝わってくるものや競馬の醍醐味が感じられるものであって欲しい。

  CMとは立派な文化である。CMそのものにどんな効果を求めるかは、それぞれの会社や組織がどんな意識でどんな方向に進もうとしているかが明確でないといけない。最近のJRAのCMからはその意図や方向性といったものが見えてこない。もっと地に根を下ろしつつ先を睨んだ見応えのあるCMを見せて欲しい。ファンから「やっぱり競馬がいちばん楽しいとです」「最近の競馬ってヨクナクナイ」といった声が上がるようなものを

 


競馬ブック編集局員 村上和巳


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