出走予定馬の最新写真&情報
NHKマイルC
・
シルクトゥルーパー
・
コパノフウジン
・
イヤダイヤダ
・
アイルラヴァゲイン
・
ディープサマー
・
デアリングハート
・
マイネルハーティー
・
ビッグプラネット
・
インプレッション
・
ラインクラフト
・
ペールギュント
1週間分の競馬ニュースをピックアップ
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
職業病
“職業病”
約束の時間よりもかなり早く目的地のバーに着いた。人を待たせるのが嫌いな性分なので待ち合わせをするといつもこうなる。薄暗いバーのカウンターに坐ると馴染みのバーテンが黒ビールを出してくる。ジージャンのポケットから煙草を出して火をつけ、出されたビールを口に運ぶ。美味い。一日の仕事を済ませた解放感も手伝って瞬時に空瓶が二本。「お待ち合わせですか」の問いに「格好いい男の子がひとり登場する予定」とだけ答えてまた煙草に火をつける。バーテンは黙って微笑む。
「ちょっと相談したいことがあるんです。よければ今度の水曜日の夜あたりに酒でも飲みながらと考えているんですが、都合はどうでしょうか」
Aからそんなメールが届いたのは数日前。相談という言葉がちょっぴり気にはなったが、気遣いなく本音で話し合える相手ということもあって快諾した。というよりも、久しぶりにAと飲むのも新鮮だなと思ったのである。騎手としてデビューした頃はイメージほど馬を動かせずに苦労していた彼。初勝利を挙げたのは東西でデビューした同期の新人9人のなかで9番目。それ以降も決して順風満帆な道を歩んだわけではなかった。しかし、地味ながらも一歩一歩階段を登り続け、最近は関西リーディングジョッキー部門のソコソコの位置に顔を出すまでに成長していた。
「大阪のトレーニングジムに行ってたもので、ちょっと遅れてしまいました。かなりキツいんですが、目標値を決めてそれをクリアすべく様々なトレーニングを積むシステムを取り入れているところなんです。しんどいけど達成感が爽快。トレセンの本(芝)馬場もよく走ってます。2000メートルのコースを5周。なにもしないでいるとどんどん怠惰になってダメになってしまう自分の甘さを自覚していますから(笑)」
行きずりの人間が見れば父親と息子がグラスを傾け合っていると思われても不思議ない雰囲気だったろう。そんな年齢差があるせいか、現場を走り回っていた頃は叱責したりダメ出しをしてばかりの嫌味な記者だったはずの私。なのに、久しぶりに重賞を勝ったときは「新人の頃に村上さんが橋渡しをしてくれたからあの厩舎と縁ができたんでしたよね。 いまでも感謝してます」なんて嬉しいメールをくれたこともある。そんな優しさや思慮深さが彼の魅力なのだが、騎手としてはそれがマイナスになることもあるのだ。
「いまでも営業は苦手。ガツガツしてまで勝ちたくはないんです。そういえば、この前、500万の平場を勝ったんですけど、その馬はもう一回500万に出られるんです。厩舎の人は次も楽勝するから乗れって言ってくれるんですけど、今度は58キロに増量されます。馬が可哀想だから55キロで出られる減量騎手を使った方がいいですよって自分で言ってしまいました。そういうとこがダメなんでしょうね。周囲の人間たちにもっと上を目指せと言われますが、マイペースでやれるいまぐらいのポジションが楽なんです。上位に行くともっと責任が重くなるし、もっとしんどくなるし。やっぱり僕って騎手には向いていないんでしょうかね(苦笑)」
若い女性にそれなりに人気があるという独身のAのこと。相談があると聞いて結婚問題でも抱えているのかとも考えていたが、「若い頃に勢いで結婚して苦労した人間を何人も見てますから、あまり早くにそうする気持ちはありません」とキッパリ否定。普段の購入馬券と同様で私の推理は見事に外れたのだった。相談された内容についてはここでは触れないが、最後に漏らした彼の近況説明が騎手という職業の大変さを伝えていた。
「職業病(不自然な前傾姿勢で馬に乗るため)といえばそれまでなんですが、腰の状態がかなり悪いんです。先日、かかりつけのお医者さんに厳しく言い渡されました。“騎手を続けたいんだったらゴルフは絶対やらないこと。それともうひとつ、○○○○は極力慎むこと。万が一、どうしても避けられない雰囲気になった場合は、パートナーに協力してもらってあなた自身が一切動かずに済む状況を設定してください”って……。そんな状況設定を先にしようものなら“どうしても避けられない雰囲気”になんかなるわけないですよね」
競馬ブック編集局員 村上和巳
◆競馬道Onlineからのお知らせ◆
このコラムが本になりました。
「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒
東邦出版HP
1951年北海道生まれ。怪しげなROCK喫茶の店主兼使用人だった当時に競馬に熱中。気がつけば1977年に競馬ブック入社。趣味の競馬が職業に。以降24年間、取材記者としてトレセン、競馬場を走り回る。2002年に突然、内勤に転属。ブック当日版、週刊誌の編集に追われている。2003年1月からこの編集員通信の担当となったが、幾つになっても馬券でやられると原稿が進まない自分が情けない。
copyright (C) Interchannel.Ltd./ケイバブック1997-2005