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競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
季節感
“季節感”
なんと5月11日に雪が降った。もちろん、栗東市でのことではなくて北海道根室市での話である。道東にある原生花園の植物たちが真っ白に雪化粧しているテレビ映像には思わず息を呑んだ。桜前線が根室にたどり着くのは5月20日を越えるだろうという予報にも驚かされた。関西で桜が満開となったのは桜花賞の直前、つまり4月の上旬だったと記憶している。それでも例年よりは1週間ほど遅れていたはず。あれから1カ月半が過ぎようとしているのに、北国はまだ春になりきっていないのだ。
私が少年時代を過ごした天北原野は根室よりもはるか北に位置する。それも日本海側のために気温は更に低く降雪量も多かった。稲作の北限地帯でもあり、いわば厳寒の地だった。12月の上旬に根雪(春まで溶けない雪)になると翌年の3月の中旬まではあたり一面が雪に覆われてしまう。子供たちはスキーが下駄代わりとなり、通学路の途中にある池や川が部厚い氷で蓋をされてしまうため、迂回することなくその上を通って近道ができた。そんな環境で育ったというのにスキー、スケートは何故か空っ下手。冬が訪れると憂鬱な時間ばかりを過ごしつつ、ただただ春の訪れを待っていた。
そんな少年時代に苦しんだことがもうひとつあった。季節感があまりに違いすぎるために俳句の季語がさっぱり理解できなかったのである。福寿草、梅、沈丁花、桜、つつじ、牡丹とつづく花暦のような類いは想像の領域をはるかに越えていた。長い冬が終わりを告げた道北の5月には、花という花が待ちわびたように同時期に咲き乱れるのである。そんな環境で育ってきた私のような人間にしてみれば、やれ啓蟄だの春眠だのといわれてもほとんどそのイメージが湧かなかった。
本州に住むようになってからは東京、京都、宝塚、大阪、滋賀と転々と本拠地を変えてきたが、少しずつではあっても、それぞれの地域で季節感を味わえるようになってきた。なによりも競馬と出逢ったのが大きな転換期になったように思う。5年、10年と競馬をつづけていくにつけて、ハマノパレードが白梅賞を勝ったときは稍重の馬場で、リードホーユーがゆきやなぎ賞に出走したときは6馬身差の圧勝、そしてファレノプシスがさざんか賞に勝ったときは石山繁が乗っていたというような記憶は実に鮮明。馬の記憶と季節感とが見事に調和するようになってきたのだ。
個人的に好きなレースは『もみじ賞』。いまではオープンの『もみじステークス』になってしまったが、2歳の若駒が紅葉の美しい秋の京都で日々成長していく過程がイメージできていい。もちろん、テンポイントとサッカーボーイが勝ったレースだからという個人的な思い入れもある。いまはもう残っていないが、『嵐山特別』も懐かしいレース。準オープンクラスの3000メートル戦で、メジロデュレンのようにここをステップにして菊花賞を制した馬も何頭かいて、条件戦ながら残して欲しい名物レースだった。断念桜花賞とも呼ばれる忘れな草賞も気に入ったネーミングのひとつである。
最近は阪神ジュベナイル・フィリーズだの朝日杯フューチュリティ・ステークスだのといった横文字のレース名ばかりが多くなっているが、日本独自の競馬文化を守るという意味でも安易なレース名の変更は慎んでもらいたい。レース名を思い浮かべるだけで懐かしい馬たちの走る姿が浮かんできて、その姿とともに季節感や当時の時代背景などが甦ってくる。そんな我々の記憶を一方的に消し去って欲しくないと考えるのは、年寄りの単なる感傷ではないと思うのだが……。
ちなみに、水原秋桜子の『歳時記』によると競馬とは初夏を表す季語となっているが、これは京都の上賀茂神社で行われている五穀成就、国家安泰を祈る神事として行われた競べ馬のこと。期日は6月5日と限られている。現代の競馬を季語にするとしたらどうなるかと考えてみたが、最高峰に位置づけられているダービーが新緑のなかで行われるもの。時季的にはこれも初夏でいいかなと考えてみたりする。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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1951年北海道生まれ。怪しげなROCK喫茶の店主兼使用人だった当時に競馬に熱中。気がつけば1977年に競馬ブック入社。趣味の競馬が職業に。以降24年間、取材記者としてトレセン、競馬場を走り回る。2002年に突然、内勤に転属。ブック当日版、週刊誌の編集に追われている。2003年1月からこの編集員通信の担当となったが、幾つになっても馬券でやられると原稿が進まない自分が情けない。
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